第570話 2013/07/10

九州年号史料「伊予三島縁起」

 わたしが大三島の大山祇神社を訪れたかった理由の一つに、九州年号史料として 著名な同神社の縁起「伊予三島縁起」を実見したかったからでした。わたしが持っている「伊予三島縁起」は五来重編『修験道史料集(2)西日本編』所収の活 字版ですので、是非とも実物か写真版で九州年号部分を確認したかったのです。残念ながら宝物館には「伊予三島縁起」は展示されておらず、販売されていた書 籍にも「伊予三島縁起」は掲載されていませんでした。
 「伊予三島縁起」の九州年号史料としての性格が、四国地方にある他の九州年号史料とはかなり異なっており、このことが以前から気にかかっていました。と いうのも、四国地方の他の九州年号史料に見える九州年号は、「白雉」や「白鳳」といった『日本書紀』『続日本紀』などの近畿天皇家の文献にも現れるものが 多く、そのため本来の九州年号史料ではなく、それら近畿天皇家史料からの転用の可能性を完全には否定できないのです。この点、「伊予三島縁起」に見える九 州年号は、「端政」「金光」「願転(転願)」「常色」「白雉」「白鳳」「大(天)長」などで、これらは『日本書紀』や『続日本紀』などからは転用のしよう がない九州年号であり、「番匠初、常色二年」など九州王朝系史料からの引用と思われる貴重な記事も含まれており、その史料性格は格段に優れているのです。
 こうした理由から、わたしはどうしても「伊予三島縁起」原本を見たかったのです。『修験道史料集』に掲載されている「伊予三島縁起」の解題には、原本は大山祇神社にあり、善本は内閣文庫にあると記されています。引き続き調査してみたいと思います。

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