『先代旧事本紀』の謎
第200話(2008/12/14)「高良玉垂命と物部氏」において、九州王朝系史料の『高良記』に玉垂命が物部であると記されていることに触れ、第207話(2009/02/28)「九州王朝の物部」で は、ある時期の九州王朝の王は物部ではなかったかという考えを述べました。このように、わたしにとって物部氏を多元史観・九州王朝説においてどのように位置づけるかというテーマが重要課題としてあるのですが、その際、物部氏系の代表的史料である『先代旧事本紀』の研究は避けて通れないものになっています。
学界では同書中の「国造本紀」は他に見えない記事を含んでおり、研究対象とされていますが、全体としては偽書として扱われているようで、近年は優れた研究がなされていないように思います。この『先代旧事本紀』を多元史観の視点で史料批判を進めたいと、何度も読んでいるのですが、いくつかの謎があるので す。
例えば、物部氏の系譜記事が「天孫本紀」として扱われており、記紀とは取扱いが異なっています。物部氏が天孫族であるとするのが同書編纂の眼目とさえ思われるのです。更には、「帝皇本紀」の継体天皇の項に「磐井の乱」が記されていないのです。すなわち物部氏の一人である物部麁鹿火の活躍が全く記されてい ません。物部氏の業績を特筆する同書に於いて、何とも不思議な現象ではないでしょうか。ちなみに物部麁鹿火は同書の「天孫本紀」に見え、安閑天皇の頃に大連となったとされています。
『先代旧事本紀』にはこの他にも謎に満ちた記載があります。どなたか一緒に研究されませんか。きっと九州王朝と物部氏の関係が解き明かされるのではないかという予感をもっています。