炭素14 年代測定法の原理と限界
―谷本茂さんからのメール―
「洛中洛外日記」3501で紹介した、浦野文孝さんの「箸墓は三〇〇年前後、ホケノ山は二七〇年前後:シンプルな根拠」(注)を読まれた谷本茂さん(『古代に真実を求めて』編集部)から次のメールが届きました。内容は理系研究者(京都大学工学部電子工学科卒)の視点で、炭素14年代測定法の限界を科学的に指摘したものです。当該部分を転載します。
【谷本茂さんからのメール(抜粋)】
〝非常に興味深い情報をご報告戴き、有難うございます。(中略)
浦野文孝さんの分析については、測定データから較正曲線(Intcal20)を使って実年代を求める方法において、年代較正ソフトOxCalを用いておられるのですが、その結果を利用するのは良いとしても、(厳密に評すれば)統計的推論法の基礎的な理解に若干不正確な部分があるようです。
それはともかく、大枠として、浦野氏の簡明な論理は、通説と同じデータに依拠しながら、通説の解釈の内部矛盾を鋭く指摘して、あっぱれですね!
土器形式による編年の論理的制約を認識しておられて、理系的論理思考ができる人なのだと感心しました。まぁ、元々の歴博や奈文研などの箸墓のC14測定データの解釈が曲解の類だったのですから、その欠点を簡明な論理で突いた点は、見事だと思います。いつまでも無理な解釈は維持できず、通説のメッキが剥げてきたということでしょうか…。
ちなみに、C14法で、実年代がピンポイント(例えば、±10年)で分かると考えるのは大きな誤解です。データの測定誤差および較正曲線の幅(統計的有意性の範囲)などを考慮すれば、どんなに条件の良い場合でも、約1世紀分の幅(±50年)がありますし、通常は±100年程度の精度(あるいは確度)のものなのです。
歴博の論文で、箸墓の築造時期が±10年の幅で特定されたというような記載もありましたが、明らかに較正曲線の読み取り結果の解釈の誤りです。測定論や統計的推論を知っているものからすれば、初歩的な解釈誤りでした。(現在はどう解釈されているのか知りませんが…)〟【転載終わり】
この谷本さんの指摘は全くその通りだと思います。わたしも現役時代に、化学製品の品質管理と検定業務の責任者をしていたことがありますが、製品の品質を精確に測定するためには、測定機器の精度や測定原理が測定目的に対して適切であることの確認は、基本中の基本です。
そうした意味からすると、炭素14年代測定法は100年単位のざっくりとした年代測定には科学的で優れた効果を期待できますが、10年単位の測定精度など原理的に望むべくもありません。言わば、1cm単位のメモリしかない定規で、1mmほどの砂粒の大きさを測れるのかというレベルの初歩的な問題です。
倭人伝に記載された「邪馬台国」(原文では邪馬壹国)を探るのであれば、例えば1mmほどの砂粒の大きさを測定するためには、せめて0.1mm単位、できれば0.01mm単位のメモリを持つ定規で測らなければならないように、較正曲線(intCAL)そのものが幅を持つ炭素14年代測定法ではなく、年輪年代測定法や年輪セルロース酸素同位体比測定法などに頼らざるを得ません。もちろんその場合でも、必要な測定条件・サンプリング環境(手法)が要求されます。(つづく)
(注)浦野文孝「箸墓は三〇〇年前後、ホケノ山は二七〇年前後:シンプルな根拠」『note』二〇二四年九月二日。
https://note.com/fumitaka_urano/n/n33c623b935b1