2017年02月11日一覧

第1334話 2017/02/11

三浦九段冤罪事件の実証と論証

 昨年、将棋界に激震をもたらした、棋士(三浦九段)が対局中にスマホで将棋ソフトを使用したという事件がありましたが、第三者委員会による調査の結果、将棋ソフトを用いたとする明確な証拠はなく、冤罪だったようです。しかし、疑われた三浦九段は決定していたタイトル戦(竜王戦)への挑戦権を奪われ、対局も禁止されるという将棋連盟による処分がなされ、週刊誌(文春)やマスコミ報道により、ご家族も含めて三浦九段は著しい人権侵害・名誉毀損を受けられました。わたしはSTAP報道事件のときの小保方さんや笹井さんへのバッシングを思い起こしました。
 なぜ将棋連盟やマスコミはこの冤罪を見抜けず、三浦九段の不正使用と決めつける過ちを犯したのでしょうか。報道によれば三浦九段の勝利した対局での指し手と将棋ソフトの指し手の一致率が70%、ときに90%のケースがあることと、対局中の離席時間か長いことなどが不正の証拠とされました。
 わたしがこの事件をニュースで知ったとき、将棋ソフトがプロ棋士よりも強くなったのかという驚きと共に、指し手の一致率が高いことが将棋ソフト使用の証拠になるのだろうかと疑問を感じました。学問的に表現するならば、指し手の一致率の高さという「実証(状況証拠)」を根拠とする、将棋ソフトを使用したとする「判断(仮説)」は、「論証」を経ていないと感じたのです。具体的に言いますと、指し手の一致率の高さは将棋ソフトを使用したケース以外にも、プロ棋士の実力レベルまで進化した将棋ソフトの指し手はトップクラスの棋士の指し手と一致するというケースも当然のこととしてありうることから、後者のケースを否定できなければ前者のケース(将棋ソフト使用)と論理的に断定できないのです。
 学問において、ある仮説を正しいとするとき、それ以外の仮説が存在しない、あるいはそれ以外の仮説が合理的に成立し得ないことを論証しなければなりません。ところが今回の事件では指し手の一致率が高いという「実証(状況証拠)」を根拠に、三浦九段が将棋ソフトを不正使用したと、将棋連盟も週刊誌も断定してしまったようです。「学問は実証よりも論証を重んじる」という村岡典嗣先生の言葉にならうのであれば、三浦九段の指し手が将棋ソフトによるものであるという論証が重要だったのではないでしょうか。
 今回のような誤断は学問研究の世界でもときおり見かけます。すなわち相関関係と因果関係の区別が無視されるというケースが少なくないのです。将棋ソフトと三浦九段の指し手の一致率が高く、両者に相関関係が認められるということと、その相関関係は因果関係なのか、それともデータの選び方や比較の方法により偶然に生じたものなのかという検証(論証)が不可欠にもかかわらず、それを怠ったのではないでしょうか。
 見かけの相関関係を「実証(状況証拠)」とみなしてしまい、それが因果関係なのかそうではないのかを論理的に考証する力(論証力)が現代の日本社会は失われてきているようにも思えます。わたしも古代史研究でこうした短絡的な批判や意見を聞くことがありますが、そのたびに「学問は実証よりも論証を重んじる」という言葉が思い浮かびます。今回の事件にあたり、古田先生から学んだ学問における論証の重要性を改めて訴えていかなければならないと思いました。


第1333話 2017/02/11

同人誌『飛行船』に古田説登場

 徳島市の「飛行船の会」(代表:竹内菊世さん)が発行されている同人誌『飛行船』第20号(平成28年11月)のコピーが合田洋一さん(古田史学の会・全国世話人、「古田史学の会・四国」事務局長)から送られてきました。古田史学の会・四国の白石恭子さんから頂いたものとのこと。
 同誌に掲載されている大北恭宏さんの「大知識人・坂口安吾」というエッセイ中に古田先生の九州王朝説が紹介されていました。そこには「ここで登場していただく先生がいる。古田武彦先生だ。古田先生は、日本の古代史の大学者だ。私は、今も、古田先生の本を、貪るように読み続けている。」と紹介され、多元史観・九州王朝説を正しく説明されています。
 日本各地の様々な分野で活躍されている人々の間に古田説が静かに確実に広がっていることが見てとれました。