盛況!久留米大学での講演
昨日、久留米大学御井校舎で開催された公開講座において、「筑紫の姫たちの伝説《倭国古伝》 -みかより姫(俾弥呼)・よど姫(壹與)・かぐや姫-」というテーマで講演させていただきました。雨天にもかかわらず80名ほどの参加がありました。遠くは長崎県から来られた方もありました。ありがたいことです。講演後の質問も数多く出され、とても熱心に聞いていただきました。持ち込んだ『古代に真実を求めて』もほぼ完売できました。
講演後、大学近くのお店で、福山教授(久留米大学文学部)や犬塚さん(古田史学の会・会員、久留米市)、長崎から見えられた中村さんと懇親会を行いました。中村さんはFaceBookで知り合った〝友達〟です。古田史学の将来や日本の学問研究について、熱く語り合いました。わたしからは、「古田史学の会・九州」を再建したいとの希望を伝えました。
当日、配られたレジュメの一部をご参考までに転載します。
2019.07.14 久留米大学公開講座
筑紫の姫たちの伝説《倭国古伝》
-みかより姫(俾弥呼)・よど姫(壹與)・かぐや姫-
古賀達也(古田史学の会・代表)
わたしたち「古田史学の会」は本年三月に『倭国古伝 姫と英雄と神々の古代史』を上梓しました。同書では全国各地に残る古代伝承を大和朝廷一元史観ではなく多元史観・九州王朝説の視点から分析し、新たな倭国古代史の復元を試みました。
その中から筑紫(筑前・筑後・肥前など)に残された姫たちの伝承を紹介します。この地域は九州王朝(倭国)の中心領域であり、その地の姫たちの伝承は九州王朝史研究においてもとりわけ重要なものです。たとえば北部九州には次のような女神や女性の伝承があります。
○俾弥呼(ひみか) 甕依姫(『筑紫風土記』逸文)
○壹與(いちよ) 淀姫 與止姫(『肥前国風土記』)
○高良山の「かぐや姫」 (『大善寺玉垂宮縁起』)
○「宝満大菩薩」「河上大菩薩」伝承
○「聖母(しょうも)大菩薩」伝承
○「大帯姫(おおたらしひめ)」伝承
○「神功皇后(気長足姫・おきながたらしひめ)」伝承
今回の講座ではこうした九州王朝(倭国)の姫たちの伝承研究の一端を紹介します。ご参考までに『倭国古伝 姫と英雄と神々の古代史』の巻頭言「勝者の歴史と敗者の伝承」を転載しました。
【転載】『倭国古伝 姫と英雄と神々の古代史』
(古田史学の会編『古代に真実を求めて』22集、明石書店)
《巻頭言》勝者の歴史と敗者の伝承
古田史学の会・代表 古賀達也
本書のタイトルに採用した「倭国古伝」とは何か。一言でいえば〝勝者の歴史と敗者の伝承から読み解いた倭国の古代伝承〟である。すなわち、勝者が勝者のために綴った史書と、敗者あるいは史書の作成を許されなかった人々の伝承に秘められた歴史の真実を再発見し、再構築した古代日本列島史である。それをわたしたちは「倭国古伝」として本書のタイトルに選んだ。
その対象とする時間帯は、古くは縄文時代、主には文字史料が残された天孫降臨(弥生時代前期末から中期初頭頃:西日本での金属器出現期)から大和朝廷が列島の代表王朝となる八世紀初頭(七〇一年〔大宝元年〕)までの倭国(九州王朝)の時代だ。
この倭国とは歴代中国史書に見える日本列島の代表王朝であった九州王朝の国名である。早くは『漢書』地理志に「楽浪海中に倭人有り」と見え、『後漢書』には光武帝が与えた金印(漢委奴国王)や倭国王帥升の名前が記されている。その後、三世紀には『三国志』倭人伝の女王卑彌呼(ひみか)と壹與(いちよ)、五世紀には『宋書』の「倭の五王」、七世紀に入ると『隋書』に阿蘇山下の天子・多利思北孤(たりしほこ)が登場し、『旧唐書』には倭国(九州王朝)と日本国(大和朝廷)の両王朝が中国史書に始めて併記される。古田武彦氏(二〇一五年十月十四日没、享年八九歳)は、これら歴代中国史書に記された「倭」「倭国」を北部九州に都を置き、紀元前から中国と交流した日本列島の代表権力者のこととされ、「九州王朝」と命名された。
『旧唐書』には「日本はもと小国、倭国の地を併わす」とあり、八世紀初頭(七〇一年)における倭国(九州王朝)から日本国(大和朝廷)への王朝交替を示唆している。この後、勝者(大和朝廷)は自らの史書『古事記』『日本書紀』を編纂し、そこには敗者(九州王朝・他)の姿は消されている。あるいは敗者の事績を自らの業績として記すという歴史造作をも勝者(大和朝廷)は厭わなかった。
古田武彦氏により、古代日本列島には様々な文明が花開き、いくつもの権力者や王朝が興亡したことが明らかにされ、その歴史観は多元史観と称された。これは、神代の昔より近畿天皇家が日本列島内唯一の卓越した権力者・王朝であったとする一元史観に対抗する歴史概念である。わたしたち古田学派は古田氏が提唱されたこの多元史観・九州王朝説の立場に立つ。
本書『倭国古伝』において、勝者により消された多元的古代の真実を、勝者の史書や敗者が残した伝承などの史料批判を通じて明らかにすることをわたしたちは試みた。そしてその研究成果を本書副題に「姫と英雄と神々の古代史」とあるように、「姫たちの古代史」「英雄たちの古代史」「神々の古代史」の三部構成として収録した。
各地の古代伝承を多元史観により研究し収録するという本書の試みは、従来の一元史観による古代史学や民俗学とは異なった視点と方法によりなされており、新たな古代史研究の一分野として重要かつ多くの可能性を秘めている。本書はその先駆を志したものであるが、全国にはまだ多くの古代伝承が残されている。本書を古代の真実を愛する読者に贈るとともに、同じく真実を求める古代史研究者が多元史観に基づき、「倭国古伝」の調査研究を共に進められることを願うものである。
〔平成三十年(二〇一八)十二月二三日、記了〕