2020年08月27日一覧

第2215話 2020/08/27

アマビエ伝承と九州王朝(4)

 アマビエ伝承において、アマヒコが「肥後国の海」に現れるということに、わたしは思い当たることがありました。九州王朝(倭国)の天子や王の存在や事績が後に「アマの長者」伝説として伝わる際、「アマ」には「天」や「尼」の字が使われるのですが、肥後国の「アマの長者」伝説にはなぜか「蜑」という珍しい字が使われているのです(注①)。
 肥後の国府(熊本市)に「アマの長者」がいたという伝承が史料中に見え、それには「蜑(アマ)の長者」と記されており(注②)、この「蜑」という字の意味は海洋民、すなわち「海人」のことだそうです。アマヒコが「肥後国の海」から現れると伝えられていることと、肥後の「アマの長者」は「蜑」という海に関係する珍しい字が採用されていることとが両伝承の結束点です。
 なお、「蜑の長者」の娘が菊池の米原(よなばる)長者に嫁入りしたという伝承もあり(注③)、たくさんの贈り物を米原長者に送るため、肥後国府(熊本市)から鞠智城までの道路「車路(くるまじ)」を「蜑の長者」が造営したとされています。
 今回の〝アマビエ伝承と九州王朝〟では、同伝承の主役「アマヒコ」が九州王朝の天子、あるいは王族に由来するという作業仮説(思いつき)に基づき、両者の共通点を傍証として取り上げました。しかしながら、アマビエ伝承そのものが肥後地方に遺っていないという弱点を持つため、残念ながら作業仮説の域を出ていません。引き続き、調査検証を進めていきます。新たな発見や論証の進展が見られましたら報告します。(おわり)

(注)
①web辞書によれば、「蜑」の音読みは「タン」、訓読みは「あま」の他に「えびす」もあり、九州王朝の天子や王(アマの長者)にふさわしい漢字とは思われない。
②古賀達也「洛中洛外日記」950話(2015/05/12)〝肥後にもあった「アマ(蜑)の長者」伝説〟
③古賀達也「洛中洛外日記」949話(2015/05/11)〝「肥後の翁」の現地伝承〟