2022年03月13日一覧

第2698話 2022/03/13

大宝二年西海道戸籍の二倍年齢 (3)

 松尾光「大宝二年西海道戸籍にみるいわゆる高齢出産の年齢」(注①)で指摘された大宝二年西海道戸籍の高齢出産を示す年齢表記は、二倍年齢による年齢計算の痕跡ではないかと思われました。というのも、わたしは八王子セミナー2020(注②)で、同じ大宝二年の御野国戸籍が二倍年齢の影響をうけているとする研究(注③)を発表したのですが、そのときの根拠は同戸籍に見える次の傾向でした。

(1) 大宝二年(702)当時としては考えにくい高齢者群が見える(注④)。
(2) 超高齢出産の事例が散見される(注⑤)。
(3) 戸主と嫡子(長子)の年齢差が30歳~40歳ほどの戸が少なからず存在し、当時の親子の年齢差としては不自然。

 これらの不自然な史料状況を合理的に解決する方法として、庚午年籍(670年)の造籍時までは当地で二倍年齢が採用されており、その二倍年齢で登記され、それ以後は一倍年齢として六年毎の造籍時に六歳が加算されたとする仮説に至りました(注⑥)。
 それでは西海道戸籍も同様の理解によりリーズナブルな年齢に換算できるでしょうか。(つづく)

(注)
①木本好信編『古代史論聚』(岩田書院、2020年)に収録。
②「古田武彦記念古代史セミナー2020」2020年11月14日(土)~15日(日)、大学セミナーハウス。
③古賀達也「古代戸籍に見える二倍年暦の影響 ―「延喜二年籍」「大宝二年籍」の史料批判―」https://iush.jp/uploads/files/20201126153614.pdf

④次の高齢者(70歳以上)が見える。
〔味蜂間郡春部里〕
 戸主姑和子賣(70歳)
〔本簀郡栗栖太里〕
 戸主姑身賣(72歳)
〔肩縣郡肩〃里〕
 寄人六人部身麻呂(77歳)・寄人十市部古賣(70歳)・寄人六人部羊(77歳)・奴伊福利(77歳)
〔山方郡三井田里〕
 下々戸主與呂(72歳)
〔加毛郡半布里〕
 戸主姑麻部細目賣(82歳)・戸主兄安閇(70歳)・大古賣秦人阿古須賣(73歳)・都野母若帯部母里賣(93歳)・戸主母穂積部意閇賣(72歳)・戸主母秦人由良賣(73歳)・下々戸主身津(71歳)・下々戸主古都(86歳)・戸主兄多比(73歳)・下々戸主津彌(85歳)・下中戸主多麻(80歳)・下々戸主母呂(73歳)・寄人石部古理賣(73歳)・下々戸主山(73歳)・寄人秦人若賣(70歳)・下々戸主身津(77歳)・戸主母各牟勝田彌賣(82歳)
⑤『御野国加毛郡半布里戸籍』「縣主族比都自」戸の「寄人縣主族都野」家族に、次の超高齢出産となる年齢が記されている。
 寄人縣主族都野(44歳、兵士)
 嫡子川内(3歳)
 都野甥守部稲麻呂(5歳)
 都野母若帯部母里賣(93歳)※「大宝二年籍」中の最高齢者。
 母里賣孫縣主族部屋賣(16歳)
 これを親子順に並べると、次の通り。
(母)若帯部母里賣(93歳)―(子)都野(44歳)―(孫)川内(3歳)
 この母と子と孫の年齢差は49歳と41歳であり、異常に離れている。特に都野は母里賣49歳のときの子供となり、女性の出産年齢としては考えにくい。また、二代続けて年齢差が異常に離れていることも不自然だ。
⑥【補正式】(「大宝二年籍」年齢-32)÷2+32歳=一倍年暦による実年齢