2022年06月18日一覧

第2767話 2022/06/18

「トマスによる福音書」と

    仏典の「変成男子」思想 (4)

 『法華経』には、「題婆達多品第十二」に見える「龍女の成仏」説話の他にも女性の救済についての説話があります。「洛中洛外日記」(注①)で紹介したことがありますが、「薬王菩薩本事品第二十三」の次の説話です。

『妙法蓮華経』「薬王菩薩本事品第二十三」

 「宿王華、若し人あって是の薬王菩薩本事品を聞かん者は、亦無量無辺の功徳を得ん。若し女人にあって、是の薬王菩薩本事品を聞いて能く受持せん者は、是の女身を尽くして後に復受けじ。若し如来の滅後後の五百歳の中に、若し女人あって是の経典を聞いて説の如く修行せば、此に於て命終して、即ち安楽世界の阿弥陀仏の大菩薩衆の圍繞せる住処に往いて、蓮華の中の宝座の上に生ぜん。
 復貪欲に悩されじ。亦復瞋恚・愚痴に悩されじ。亦復・慢・嫉妬・諸垢に悩されじ。菩薩の神通・無生法忍を得ん。是の忍を得已って眼根清浄ならん。是の清浄の眼根を以て、七百万二千億那由他恒河沙等の諸仏如来を見たてまつらん。」

 当時、成仏できないとされた女人でも、薬王菩薩本事品を聞き、説の如く修行すれば、死後に「安楽世界の阿弥陀仏の大菩薩衆の圍繞せる住処に往いて、蓮華の中の宝座の上に生ぜん」と阿弥陀浄土への往生ができると説いたものです。わたしが着目したのは「若し女人にあって、是の薬王菩薩本事品を聞いて能く受持せん者は、是の女身を尽くして後に復受けじ。」の部分です。三枝充悳氏による現代語訳では次のようです(注②)。

 「もしある女人が、この薬王菩薩本事品を聞いて、よく受持するならば、このひとは、女身を尽くしてから後に再び女身を受けるということはないであろう。」三枝充悳『法華経現代語訳(下)』464頁

 薬王菩薩本事品のこの部分は釈迦が女人の往生を説いた説話で、「女性救済」思想なのですが、ここでも「女身」であることをネガティブに捉え、滅後は再び女身として生まれないという〝方法〟を説いているわけです。現代人の感覚としては、なんともやりきれないのですが、このような便法を用いなければならないほど、当時の女性蔑視社会の圧力は強かったことがうかがえます。
 わたしにはこうした釈迦の便法を、あたまから否定することができません。現代社会にも、「正義」や「平等」「平和」を主張するだけでは一向に解決できない問題が数多くあり、その間も苦しみ続けている人々がいることを知っているからです。まさに釈迦やイエスが生きた時代はそのような精神文明の社会だったのです。(つづく)

(注)
①古賀達也「洛中洛外日記」2505話(2021/06/29)〝九州王朝(倭国)の仏典受容史(2) ―法華経「薬王菩薩本事品」の阿弥陀浄土思想―〟
②三枝充悳『法華経現代語訳(下)』第三文明社レグルス文庫、1974年。


第2766話 2022/06/18

YouTube「考古学は

なぜ『邪馬台国』を見失ったのか」が好評

 5月1日、京都で行った講演「考古学はなぜ『邪馬台国』を見失ったのか」が好評です(注①)。一昨日、正木裕さん(古田史学の会・事務局長、大阪府立大学講師)からのご連絡で知ったのですが、同講演のユーチューブ動画(注②)のアクセス件数が短期間で二千件を越えたとのことです。わたしも驚いて確認したところ、この数日は1日百件のペースで増えているようです。自分が映っている動画など恥ずかしくて、今までほとんど見なかったのですが、今回ばかりは最後まで見ました。
 講演会当日はご近所の京極学区(注③)の役員方も数名参加され、「おもしろかった」「わかりやすかった」とお褒めの言葉をいただきました。内容も一般市民向けであることを意識したものでしたが、web上で注目されていることから、タイトルも大切であると思いました。「古田史学の会」創立以来、インターネットでの発信に注力し、ホームページの充実を計ってきました。ホームページ「新・古代学の扉」は横田幸男さん(古田史学の会・全国世話人、東大阪市)に担当していただいていますが、わたしたちが思っている以上に大きな影響力を持っているようです。最近も、某大学教授のブログで『古代史の争点』(注④)をご批判をいただきましたが、わたしたちのホームページ、特に「洛中洛外日記」をしっかりとお読みいただいていることが、その文面からはうかがえました。
 また、お気づきの読者も多いと思いますが、今年になってホームページでのユーチューブ動画配信を一段と強化しました。これは竹村順弘さん(古田史学の会・事務局次長、木津川市)のご尽力によるものです。これからは主催講演会のリモート配信なども積極的に進めて行ければと考えています。既に関西例会では常連参加者を対象としてリモート参加を試験的に導入しています。こちらは竹村さんと久冨直子さん(『古代に真実を求めて』編集部、京都市)に担当していただいています。克服すべき課題もありますが、機材も揃えましたので更に拡充していきたいと思います。

(注)
①「市民古代史の会・京都」主催の古代史講演会。5月1日、京都駅前のキャンパスプラザ・京都で開催。コロナ禍が落ち着いてきたこともあり、会場は満席となった。古賀と正木裕氏が講演した。
https://youtu.be/9Kl8XjiaWp0
https://youtu.be/vN4KJEQgSlU
https://youtu.be/kEXqLpe5FjQ
③京都市上京区の京極小学校を中心とした学区。同校は明治の学制発足時からの伝統校で、湯川秀樹氏の母校でもある。わたしの娘も同校の卒業で、湯川博士の母校で学ぶことを誇りに感じていたようである。
④『古代史の争点』(『古代に真実を求めて』25集)明石書店、2020年。編集長は大原重雄氏(古田史学の会・会員、京都府大山崎町)。