『旧唐書』倭国伝「去京師一萬四千里」 (12)
唐代の1里を何メートルとするのかについて、先行研究を調査していますが、おおよそ次のような求め方が見られます。
(1)唐代の尺(モノサシ)を求め、その実測値から1里を換算するという方法。
(2)歴代史書に見える「尺」の変遷記事に基づき、より確かな時代の尺(モノサシ)の実測値から換算する。
(3)そうして得られた唐代の1里が長安城遺跡などの実測値に対応しているか確認する。また、『旧唐書』地理志などの里程記事との対応を検証する。
この方法論で最初に問題となるのが、(1)の唐代のモノサシの実測値です。多数出土・伝存している唐尺には微妙に差(28cm~31.35cm。注①)があり、1800尺を1里と計算するため、その小差が1800倍に広がり、計算上の1里に更に差が生じるという問題があります。『中国古典文学大系 22 大唐西域記』(平凡社 1971)補注〝『西域記』の「一里」の長さ〟に見える、「里数を計る基礎となる唐尺の現存するものは多数あるが、その長さには小差があり、従って一定の公認された数値としては今日なさそうである。」という解説はそのことを意味しています。
しかも、唐尺には小尺(約24cm)と大尺(約30cm)という、もっと大きな差があります(注②)。この差が1800倍され、「小里」と「大里」(いずれも古賀による仮称)の発生原因となるわけです。(つづく)
(注)
①矩斎「古尺考」(藪田嘉一郎『中国古尺集説』綜芸舎、1969年)の「現存歴代古尺表」によれば、唐代の尺(モノサシ)14品が掲載され、その1尺の実測値は28cm~31.35cmである。
②山田春廣氏(古田史学の会・会員、鴨川市)のブログ「sanmaoの暦歴徒然草」(2021年12月22日)〝実在した「南朝大尺」 ―唐「開元大尺」は何cmか― 〟によれば次の唐尺がある。
唐小尺 金工 長さ24.3cm
唐玄宗開元小尺 金工 長さ24.5cm
唐玄宗開元大尺 金工 長さ29.4cm
※開元尺は、唐の玄宗皇帝が開元年間(713年~741年)に『開元令』で定めたとされているもの。
従って、どの尺単位を1800倍するかで1里の長さは大きく変わる。
唐小尺 24.3cm×1800=437.4m
唐玄宗開元小尺 24.5cm×1800=441m
唐玄宗開元大尺 29.4cm×1800=529.2m