『古田史学会報』178号の紹介
『古田史学会報』178号が発行されました。拙稿〝『隋書』俀国伝の都の位置情報 ―古田史学の「学問の方法」―〟を掲載して頂きました。これはフィロロギーの方法を、『隋書』俀国伝の都の位置情報認識研究に採用したものです。すなわち、『隋書』成立当時の「俀国伝」読者がどのようにして俀国の都の位置認識を構成するのか、そして『隋書』編者は読者にどのような理解を促しているのかを考察し、それらを現代の研究者が再認識するという学問の方法について論じました。
一面には正木さんの力作〝「二倍年暦」と「皇暦」から考える「神武と欠史八代」〟が掲載。皇暦と実年代との対応については、多くの先行研究があります。多元史観・古田史学でも二倍年暦の概念を採用する、皇暦の実年代研究がなされてきましたが、管見ではまだ誰も全体的に整合性のある仮説提起に成功していません。今回の正木稿ではかなり成功しているように見え、今後の論争や研究により、同説の復元精度が検証されるものと期待しています。
本号で最も注目したのが日野智貴さんの〝覚信尼と「三夢記」についての考察 豅弘信論文への感想〟でした。親鸞の「三夢記」は永く偽作とされてきたのですが、古田先生の研究により真作とされました。その古田説を批判して偽作とする論文が豅(ながたに)弘信さんにより発表されたのですが(注①)、古田先生最晩年のことでもあった為か、先生から応答はなされていませんでした。そこで、日野さんが代わって反論されたものです。
この日野論文については「洛中洛外日記」(注②)で紹介しましたが、豅さんの批判はいずれも偽作と断定できるような証明力はないことを明らかにされ、親鸞と末娘の覚信尼の関係性についても考察されたものです。近年の古田学派では古田親鸞論に関する研究や論文発表がほとんど見られなくなり、残念に思っていたのですが、日野さんのような若き学究が現れ、冥界の先生も喜んでおられることと思います。
178号に掲載された論稿は次の通りです。投稿される方は字数制限(400字詰め原稿用紙15枚程度)に配慮され、テーマを絞り込んだ簡潔な原稿とされるようお願いします。
【『古田史学会報』178号の内容】
○「二倍年暦」と「皇暦」から考える「神武と欠史八代」 川西市 正木 裕
○さまよえる拘奴国と銅鐸圏の終焉 吹田市 茂山憲史
○俀国伝と阿蘇山 姫路市 野田利郎
○覚信尼と「三夢記」についての考察 豅弘信論文への感想 たつの市 日野智貴
○『隋書』俀国伝の都の位置情報 ―古田史学の「学問の方法」― 京都市 古賀達也
○「壹」から始める古田史学・四十四 「倭奴国」と「邪馬壹国・奴国」① 古田史学の会・事務局長 正木 裕
○『古田史学会報』原稿募集
○史跡めぐりハイキング 古田史学の会・関西
○古田史学の会・関西例会のご案内
○編集後記 西村秀己
(注)
①豅弘信「『三夢記』考」『宗教研究』84-3、2010年。真宗大谷派西念寺公式サイトにも掲載。
②古賀達也「洛中洛外日記」3092話(2023/08/13)〝親鸞「三夢記」研究の古田論文を読む〟