『多元』182号の紹介
友好団体である多元的古代研究会の会報『多元』182号が届きました。同号には拙稿〝吉野ヶ里出土石棺被葬者の行方〟を掲載していただきました。同稿では、30年前に古田先生と吉野ヶ里遺跡に行ったときの思い出や、銅鐸が出土した加茂岩倉遺跡(島根県加茂町)を先生が一人お忍びで訪問されたときのエピソードなどを紹介しました。更に〝日本の発掘調査技術の進歩〟として、最先端機材を使用した福岡県古賀市の船原古墳発掘調査の方法を解説しました。それは次のようなものです。
(a)遺構から遺物が発見されたら、まず遺構のほぼ真上からプロカメラマンによる大型立体撮影機材で詳細な撮影を実施。
(b)次いで、遺物を土ごと遺構から取り上げ、そのままCTスキャナーで立体断面撮影を行う。この(a)と(b)で得られたデジタルデータにより遺構・遺物の立体画像を作製する。
(c)そうして得られた遺物の立体構造を3Dプリンターで復元する。そうすることにより、遺物に土がついたままでも精巧なレプリカが作製でき、マスコミなどにリアルタイムで発表することが可能。
(d)遺物の3Dプリンターによる復元と同時並行で、遺物に付着した土を除去し、その土に混じっている有機物(馬具に使用された革や繊維)の成分分析を行う。
こうした作業により、船原古墳群出土の馬具や装飾品が見事に復元され、遺構全体の状況が精緻なデジタルデータとして保存されました。日本の発掘調査技術がここまで進んでいる一例として紹介しました。
同誌には清水淹(しみず ひさし、横浜市)さんの「最近の団体誌を見て」という記事が連載されており、『古田史学会報』や『東京古田会ニュース』などに掲載された論稿の批評がなされています。わたしも友好団体から送られてくる会誌を拝読していますが、わたしとは異なる清水さんの視点や感想が報告されており、とても勉強になります。学問研究は、自説への批判や自分の考えとは異なる意見に触れることにより発展しますので、毎号、楽しみに読んでいます。