和田家文書一覧

東日流外三郡誌とは 和田家文書研究序説 古賀達也
https://www.furutasigaku.jp/jfuruta/sinkodai1/koga101.html

第3483話 2025/05/07

八幡書店・武田社長との対談録

 八幡書店から刊行する『東日流外三郡誌の逆襲』に収録する、武田社長との対談録の原稿が先日届き、校正追記して送り返しました。A4版で40枚の原稿となり、大変な作業でしたが、その甲斐あって面白い対談録になりました。

 和田家文書の信頼性や偽書の定義など、武田社長とわたしの見解の差なども随所にあらわれており、読者にも楽しんでいただけるものと思います。一言でいえば、和田家文書を文献史学の視点から研究するわたしと、伝承文学として捉えようとする武田社長との差異といってもよいかもしれません。ただ、偽作説に対する批判や憤りは共感しており、とても楽しく有意義な対談録になりました。校正に当たっては、そうした会話体の雰囲気を損なわないよう、かつ読者が理解しやすいような修正にとどめました。

 その後も武田社長から毎晩のように内容確認や相談の電話が続いています。後世に残す一冊にしようとする熱意が感じられ、わたしも同じ気持ちですので、連日、初校ゲラの修正を行っています。かなりの修正件数となり、発行を少し遅らせてでもゲラ校正作業を一回増やす必要を感じています。

 刊行後、東京や青森で出版記念講演会を行う予定です。武田社長は青森の講演会にも参加したいとのことでした。本を世に出すにあたり、執筆者と版元の情熱と息が合うことの大切さを改めて知ることができました。NHK大河ドラマ「べらぼう」の〝蔦重〟の気持ちが少しはわかったような気がします。

『東日流外三郡誌の逆襲』構成
●まえがき
•『東日流外三郡誌』を学問のステージへ 古田史学の会 代表 古賀達也
•『和田家文書研究のすすめ』 古田武彦と古代史を研究する会 会長 安彦克己
•『東日流外三郡誌の逆襲』の刊行に寄せて 古田史学の会・仙台 原 廣通
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●目次
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プロローグ

第1章 東日流の新時代を拓く 弘前市議会議員 石岡ちづ子
第2章 和田家文書を伝えた人々 秋田孝季集史研究会 会長 竹田侑子
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第一部 真実を証言する人々

第3章 『東日流外三郡誌』真作の証明 ―「寛政宝剣額」の発見― 古賀達也
第4章 真実を語る人々 古賀達也
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第二部 偽作説への反証

第5章 知的犯罪の構造 ―偽作論者の手口をめぐって― 古賀達也
第6章 実在した「東日流外三郡誌」編者 ―和田長三郎吉次の痕跡― 古賀達也
第7章 伏せられた「埋蔵金」記事 ―「東日流外三郡誌」諸本の異同― 古賀達也
第8章 和田家文書に使用された和紙 古賀達也
第9章 和田家文書裁判の真相 付:仙台高裁への陳述書2通 古賀達也
第10章 「東日流外三郡誌」の証言 ―令和の「和田家文書」調査― 古賀達也
第11章 新・偽書論 「東日流外三郡誌」偽作説の真相 日野智貴
________________________________________
第三部 資料と遺物

第12章 石塔山レポート 秋田孝季集史研究会
第13章 役の小角史料「銅板銘」の紹介 古賀達也
第14章 和田家文書の戦後史 古賀達也
第15章 和田家文書デジタルアーカイブへの招待 藤田隆一
________________________________________
第四部 和田家文書から見える世界

第16章 宮沢遺跡は中央政庁跡 安彦克己
第17章 二戸天台寺の前身寺院「浄法寺」 安彦克己
第18章 中尊寺の前身寺院「仏頂寺」 安彦克己
第19章 『和田家文書』から「日蓮聖人の母」を探る 安彦克己
第20章 浅草キリシタン療養所の所在地 安彦克己
第21章 浄土宗の『和田家文書』批判を糺す —金光上人の入寂日を巡って— 安彦克己
第22章 大神神社の三つ鳥居の由来 秋田孝季集史研究会 事務局長 玉川 宏
第23章 田沼意次と秋田孝季in『和田家文書』その1 皆川恵子
第24章 秋田実季の家系図研究 冨川ケイ子
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○巻末特別対談 東日流外三郡誌の逆襲 八幡書店 社長 武田崇元・古賀達也
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あとがき 謝辞に代えて ―冥界を彷徨う魂たちへ― 古賀達也


第3479話 2025/04/25

『東日流外三郡誌の逆襲』謝辞に代えて

 ―冥界を彷徨う魂たちへ―

 5月末刊行予定の『東日流外三郡誌の逆襲』のために書き下ろした「謝辞に代えて ―冥界を彷徨う魂たちへ―」掉尾の一節を紹介します。

【以下、転載】
七、冥界を彷徨う魂たち
あるとき、古田先生はわたしにこう言われた。「わたしは『秋田孝季』を書きたいのです」と。東日流外三郡誌の編者、秋田孝季の人生と思想を伝記として世に出すことを願っておられたのだ。思うにこれは、古田先生の東北大学時代の恩師、村岡典嗣(むらおかつねつぐ)先生が二十代の頃に書かれた名著『本居宣長』を意識されてのことであろう。

 それを果たせないまま先生は二〇一五年に逝去された。ミネルヴァ書房の杉田社長が二〇一六年の八王子セミナーにリモート参加し、和田家文書に関する著作を古田先生に書いていただく予定だったことを明らかにされた。恐らく、それが『秋田孝季』だったのではあるまいか。先生が果たせなかった『秋田孝季』をわたしたち門下の誰かが書かなければならない。その一著が世に出るまで、東日流外三郡誌に関わった人々の魂は冥界を彷徨い続けるであろうから。〔令和六年(二〇二四)四月十日、筆了〕

【写真】『東日流内三郡誌』と『東日流外三郡誌』。(明治写本)


第3478話 2025/04/24

東日流外三郡誌を学問のステージへ

 ―和田家文書研究序説―

本年5月末頃に刊行予定の『東日流外三郡誌の逆襲』の序文として書き下ろした「東日流外三郡誌を学問のステージへ ―和田家文書研究序説―」の最終節を紹介します。同書を世に出すに当たっての思いを綴ったものです。

【以下、転載】
五、文献史学のアプローチを
東日流外三郡誌をはじめとする和田家文書は、江戸時代の寛政年間を中心に編纂された伝承史料群である。そこに記された「史料事実」は江戸期における人々の歴史認識であって、それは「歴史事実」とは異なる別の概念だ。したがって和田家文書は、そこに記された歴史叙述がどの程度歴史の真実を伝えているのかを研究する、文献史学の研究対象なのである。
しかし、東日流外三郡誌は不運に見舞われた。理不尽な偽作キャンペーンの発生だ。偽作論者たちは、和田家文書に〝偽書〟のレッテルを貼り、文献史学の研究対象とする研究者に論難を加え、和田喜八郎氏による偽作とまで言い放ったのである。
そのような偽作キャンペーンに学問的反証を行い、和田家文書を真っ当な文献史学の研究対象の場に戻すべく、本書は上梓された。東日流外三郡誌と歴史の真実のみを求める。本書はこの学問精神に貫かれている。東日流外三郡誌の逆襲がここから始まるのである。〔令和六年(二〇二四)三月二十日、筆了〕

【写真】1994.5.7 石塔山神社にて。和田喜八郎氏・古田武彦氏・古賀。テレビ東京放送(昭和61年頃)の東日流外三郡誌調査風景。

参考


第3477話 2025/04/23

『東日流外三郡誌の逆襲』初校ゲラ校正

 先週末、八幡書店から『東日流外三郡誌の逆襲』の初校ゲラが届き、連日夜遅くまで校正・校閲作業に追われています。また同社の武田社長からは対談記事の内容確認などの電話が続いています。当初の予想を大幅に上回る約四百頁の著作となりましたが、これは先に「古田史学の会」で編集発刊した『列島の古代と風土記』(『古代に真実を求めて』28集、明石書店)の二倍です。そのため、校閲作業を娘(同志社大学メディア学科卒)に手伝ってもらうことにしました。AIを駆使してデジタルデータのチェックを行うとのことで、旧世代のわたしには思いもよらない新時代の技術のようです。

 同書は偽作説への痛烈な反証になっています。和田家文書偽作説を支持する方には是非読んで頂きたいと願っています。五月末頃に予定されている出版の暁には、東京・仙台・青森で記念講演会を開催したいと考えており、関係者の皆様と相談しています。

『東日流外三郡誌の逆襲』構成
●まえがき
•『東日流外三郡誌』を学問のステージへ 古田史学の会 代表 古賀達也
•『和田家文書研究のすすめ』 古田武彦と古代史を研究する会 会長 安彦克己
•『東日流外三郡誌の逆襲』の刊行に寄せて 古田史学の会・仙台 原 廣通
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●目次
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プロローグ

第1章 東日流の新時代を拓く 弘前市議会議員 石岡ちづ子
第2章 和田家文書を伝えた人々 秋田孝季集史研究会 会長 竹田侑子
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第一部 真実を証言する人々

第3章 『東日流外三郡誌』真作の証明 ―「寛政宝剣額」の発見― 古賀達也
第4章 真実を語る人々 古賀達也
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第二部 偽作説への反証

第5章 知的犯罪の構造 ―偽作論者の手口をめぐって― 古賀達也
第6章 実在した「東日流外三郡誌」編者 ―和田長三郎吉次の痕跡― 古賀達也
第7章 伏せられた「埋蔵金」記事 ―「東日流外三郡誌」諸本の異同― 古賀達也
第8章 和田家文書に使用された和紙 古賀達也
第9章 和田家文書裁判の真相 付:仙台高裁への陳述書2通 古賀達也
第10章 「東日流外三郡誌」の証言 ―令和の「和田家文書」調査― 古賀達也
第11章 新・偽書論 「東日流外三郡誌」偽作説の真相 日野智貴
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第三部 資料と遺物

第12章 石塔山レポート 秋田孝季集史研究会
第13章 役の小角史料「銅板銘」の紹介 古賀達也
第14章 和田家文書の戦後史 古賀達也
第15章 和田家文書デジタルアーカイブへの招待 藤田隆一
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第四部 和田家文書から見える世界

第16章 宮沢遺跡は中央政庁跡 安彦克己
第17章 二戸天台寺の前身寺院「浄法寺」 安彦克己
第18章 中尊寺の前身寺院「仏頂寺」 安彦克己
第19章 『和田家文書』から「日蓮聖人の母」を探る 安彦克己
第20章 浅草キリシタン療養所の所在地 安彦克己
第21章 浄土宗の『和田家文書』批判を糺す —金光上人の入寂日を巡って— 安彦克己
第22章 大神神社の三つ鳥居の由来 秋田孝季集史研究会 事務局長 玉川 宏
第23章 田沼意次と秋田孝季in『和田家文書』その1 皆川恵子
第24章 秋田実季の家系図研究 冨川ケイ子
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○巻末特別対談 東日流外三郡誌の逆襲 八幡書店 社長 武田崇元・古賀達也
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あとがき 謝辞に代えて ―冥界を彷徨う魂たちへ― 古賀達也


第3466話 2025/04/05

『東京古田会ニュース』221号の紹介

 『東京古田会ニュース』221号が届きました。拙稿「蝦夷国「会津高寺」への仏教伝来」を掲載していただきました。同稿は、近年わたしが取り組んでいるテーマ「古代日本列島の三国時代」、すなわち倭国(九州王朝)、日本国(大和朝廷)と蝦夷国(日高見国)の三国鼎立という多元史観研究の一環として、九州王朝から蝦夷国への仏教伝来史料を紹介したものです。

 残念なことに、多元史観・九州王朝説を支持する古田学派に於いても蝦夷国研究は他の二国と比べて研究が遅れており、中には七世紀段階でも律令制国家の倭国や近畿天皇家よりも、蝦夷国を一段と劣る〝部族連合〟のような捉え方をする論者も見かけます。これは学界にはびこる一元史観の延長で蝦夷国を捉えたものであり、やはり蝦夷国に対しても多元史観による実証的な研究が必要です。この取り組みの一つとして、仏教受容という切り口で蝦夷国の実体に迫りたいと思い、同稿を著したものです。

 『東京古田会ニュース』には他紙には見られない特徴的な連載があります。同会々長の安彦克己さんによる「和田家文書備忘録」です。当号で11回目を迎え、今回のテーマは「安東船と宗任」。宗任(むねとう)とは安倍宗任のことで、前九年の役で敗れた安倍貞任と息子の千代童丸は自刃し、宗任は九州に流されます。わたしも三十年前に和田家文書に記された宗任配流記事と九州に遺っている宗任伝承の一致について論文を書いたことがあり、とても懐かしいテーマです。

 このような和田家文書に記された記事について、安彦さんは備忘録として連載しています。こうした基礎研究に当たる作業は、後学による和田家文書研究に大いに役立つことと思います。5月末頃に八幡書店から刊行が予定されている『東日流外三郡誌の逆襲』にも安彦さんの下記の研究論文が収録されます。

第四部 和田家文書から見える世界 扉
第16章 宮沢遺跡は中央政庁跡
第17章 二戸天台寺の前身寺院「浄法寺」
第18章 中尊寺の前身寺院「仏頂寺」
第19章 『和田家文書』から「日蓮聖人の母」を探る
第20章 浅草キリシタン療養所の所在地 安彦克己
第21章 浄土宗の『和田家文書』批判を糺す —金光上人の入寂日を巡って—

 同書や会紙の安彦さんの論考により、和田家文書研究が大きく前進することを願っています。


第3464話 2025/04/01

『東日流外三郡誌の逆襲』編集大詰め

八幡書店で進められている『東日流外三郡誌の逆襲』の編集作業が大詰めを迎えています。このところ毎晩遅くまで同社の武田社長と編集の打ち合わせと原稿の改定に追われています。順調に進めば5月末頃には発行できるとのことです。

同書の構成については八幡書店のアドバイスを尊重し、次のように改めることになりました。執筆者の皆様にはご理解の程、お願い申し上げます。引き続き、調整や修正があるかもしれませんが、出版のプロのご意見だけに、わたしが提案した当初の章立てよりもかなり読みやすくなっています。出版までもう一息です。

『東日流外三郡誌の逆襲』構成
●まえがきに相当(目次の前)
•『東日流外三郡誌』を学問のステージへ 古田史学の会 代表 古賀達也
•『和田家文書研究のすすめ』 古田武彦と古代史を研究する会 会長 安彦克己
•『東日流外三郡誌の逆襲』の刊行に寄せて 古田史学の会・仙台 原 廣通
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●目次
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プロローグ 扉

第1章 東日流の新時代を拓く 弘前市議会議員 石岡ちづ子
第2章 和田家文書を伝えた人々 秋田孝季集史研究会 会長 竹田侑子
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第一部 真実を証言する人々 扉

第3章 『東日流外三郡誌』真作の証明 ―「寛政宝剣額」の発見― 古賀達也
第4章 真実を証言する人々 古賀達也
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第二部 偽作説への反証 扉

第5章 知的犯罪の構造 ―偽作論者の手口をめぐって― 古賀達也
第6章 実在した「東日流外三郡誌」編者 ―和田長三郎吉次の痕跡― 古賀達也
第7章 伏せられた「埋蔵金」記事 ―「東日流外三郡誌」諸本の異同― 古賀達也
第8章 和田家文書に使用された和紙 古賀達也
第9章 和田家文書裁判の真相 付:仙台高裁への陳述書2通 古賀達也
第10章 「東日流外三郡誌」の証言 令和の「和田家文書」調査 古賀達也
第11章 新・偽書論 「東日流外三郡誌」偽作説の真相 日野智貴
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第三部 資料と遺物 扉

第12章 石塔山レポート 秋田孝季集史研究会
第13章 役の小角史料「銅板銘」の紹介 古賀達也
第14章 和田家文書の戦後史 古賀達也
第15章 和田家文書デジタルアーカイブへの招待 藤田隆一
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第四部 和田家文書から見える世界 扉

第16章 宮沢遺跡は中央政庁跡 安彦克己
第17章 二戸天台寺の前身寺院「浄法寺」 安彦克己
第18章 中尊寺の前身寺院「仏頂寺」 安彦克己
第19章 『和田家文書』から「日蓮聖人の母」を探る 安彦克己
第20章 浅草キリシタン療養所の所在地 安彦克己
第21章 浄土宗の『和田家文書』批判を糺す —金光上人の入寂日を巡って— 安彦克己
第22章 大神神社の三つ鳥居の由来 秋田孝季集史研究会 事務局長 玉川 宏
第23章 田沼意次と秋田孝季in『和田家文書』その1 皆川恵子
第24章 秋田実季の家系図研究 冨川ケイ子
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○巻末特別対談 東日流外三郡誌の逆襲 八幡書店 社長 武田崇元・古賀達也
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あとがき 謝辞 ―冥界を彷徨う魂たちへ― 古賀達也


第3462話 2025/03/30

奈良新聞本社で関川尚功先生と対談

 本日、奈良新聞本社にて関川尚功先生(元橿原考古学研究所)と本年予定されている講演会の内容について相談をしました。とは言え、時間の大半は学問研究の話です。特に近年何かと話題になっている年輪年代測定法や炭素同位体年代測定補正値について意見交換しました。

 わたしからは奈文研の年輪年代測定の基本データは少なくとも七世紀においては正確であること、炭素同位体年代測定の補正曲線intCAL20は福井県水月湖のデータに基づいたJCALが採用されており、弥生時代の年代についても従来の土器や古墳の編年との整合性がとれて、信頼性が向上したのではないかと説明しました。

 同席していただいた奈良新聞社の竹村さんから3月25日の奈良新聞をいただきました。過日、「古田史学の会」創立30周年について受けた取材記事が二面にわたり掲載されていました。関川先生も奈良新聞を購読されているようで、私へのインタビュー記事に驚いたとのことでした。

 「古田史学の会」草創の歴史を大きく取り扱っていただいた奈良新聞社に深く感謝しています。


第3389話 2024/12/09

『旧唐書』倭国伝・日本国伝の

          「蝦夷国」 (1)

 「洛中洛外日記」〝『旧唐書』倭国伝の「東西五月行、南北三月行」 〟(注①)で、倭国伝冒頭(注②)に見える倭国(九州王朝)に「附屬」している「五十餘国」に蝦夷国が含まれる可能性について論じました。そこでの結論は、倭国伝には「在新羅東南大海中」とあり、本州島が半島ではなく大海中の島国と認識されていることから(津軽海峡の存在を知っている)、このことを重視すれば、倭国に「附屬」する「五十餘国」に、津軽海峡を知悉しているであろう蝦夷国(陸奥国・出羽国)が含まれていたと考えた方がよいとしました。すなわち、「東西五月行」の領域には蝦夷国(後の出羽国・陸奥国)が含まれるとする理解です。

 これは七世紀後半に蝦夷国が倭国(九州王朝)に服属していたか否かというテーマでもあります。わたしの考察によれば、七世紀後半頃の蝦夷国は倭国の影響下にあり、その状況を「附屬」と『旧唐書』編者は表したとするに至りました。このことを示唆する『日本書紀』斉明五年(659)七月条の「伊吉連博德書」の記事があります(注③)。

「天子問いて曰く、蝦夷は幾種ぞ。使人謹しみて答ふ、類(たぐい)三種有り。遠くは都加留(つかる)と名づけ、次は麁蝦夷(あらえみし)、近くは熟蝦夷(にきえみし)と名づく。今、此(これ)は熟蝦夷。毎歳本國の朝に入貢す。」

 唐の天子の質問に対して、蝦夷国には都加留と麁蝦夷と熟蝦夷の三種類があると、倭国の使者は答えています。遠くの都加留とは津軽地方(現・青森県)のことと思われ、その地の蝦夷が津軽海峡の存在を知らないはずがありません。従って、倭国伝には倭国の位置を「在新羅東南大海中」の島国と記されたわけです。また、熟蝦夷が毎歳「本國之朝」に入貢しているという記述も、倭国に「附屬」している「五十餘国」に蝦夷国が含まれているとする、わたしの見解を支持しているのではないでしょうか。(つづく)

(注)
①古賀達也「洛中洛外日記」3385話(2024/12/03)〝『旧唐書』倭国伝の「東西五月行、南北三月行」 (1)〟
②『旧唐書』倭国伝冒頭の記事。
「倭國者、古倭奴國也。去京師一萬四千里、在新羅東南大海中。依山島而居、東西五月行、南北三月行。世與中國通。其國、居無城郭、以木爲柵、以草爲屋。四面小島、五十餘國、皆附屬焉。」
③『日本書紀』斉明五年(659)七月条に次の蝦夷関連記事がある。
秋七月丙子朔戊寅、遣小錦下坂合部連石布・大仙下津守連吉祥、使於唐國。仍以道奧蝦夷男女二人示唐天子。
伊吉連博德書曰「(前略)天子問曰、此等蝦夷國有何方。使人謹答、國有東北。天子問曰、蝦夷幾種。使人謹答、類有三種。遠者名都加留、次者麁蝦夷、近者名熟蝦夷。今此熟蝦夷毎歳入貢本國之朝。天子問曰、其國有五穀。使人謹答、無之。食肉存活。天子問曰、國有屋舍。使人謹答、無之。深山之中、止住樹本。天子重曰、朕見蝦夷身面之異極理喜怪、使人遠來辛苦、退在館裏、後更相見。(後略)」
難波吉士男人書曰「向大唐大使觸嶋而覆、副使親覲天子奉示蝦夷。於是、蝦夷以白鹿皮一・弓三・箭八十獻于天子。」


第3388話 2024/12/08

『東京古田会ニュース』219号の紹介

 『東京古田会ニュース』219号が届きました。拙稿「『幻想の津軽中山古墳群』の証言」を掲載していただきました。同稿で紹介した奈利田浮城著『古代探訪 幻想の津軽中山古墳群』(昭和51年刊)は、三十年前の和田家文書調査時に青森で入手したもので、同書には、津軽地方の石塔山横穴古墳(役小角墳墓)の解説中に、和田家が山中の洞窟から発見した遺物のことが記されています。次の記述です。

 「発見者(昭和26年6月)和田元市氏の口述、それをメモした在地の諸先生方のご教示と。福士貞蔵先生の解釈。出土した仏像と佛具、さらには舎利壺、銅板銘文、木皮漆書をもとに心血を傾けて数年間にわたって解読と解明にあたられた飯詰の開米智鎧師の後世に残るであろう原文の直訳記録に依存し、私見を導入して綴り込むことの大胆無謀を重々寛容願いたい。」70頁

 昭和26年に、山中で炭焼きをしていた和田父子(元市・喜八郎)が、自家の文書に基づいて発見した遺物について記されており、「和田元市氏の口述」とあることから、当時は喜八郎氏(25歳)よりも父親の元市氏の発言が重要であったことがわかります。このことは、和田家文書を喜八郎氏による偽作とする偽作説と、当時の状況を知る人の証言とは食い違うことを示しており、奈利田氏の証言は貴重です。

 同号で最も注目したのが國枝浩さん(世田谷区)の「本居宣長の中国との外交史論」でした。本居宣長『馭戎慨言(ぎょじゅうがいげん)』に見える日中国交史における宣長の思想性を論じたもの。古代史学界の一元史観批判にも通じる鋭い指摘であり、刮目しました。

 なお、國枝稿では『続日本紀』和銅二年条の蝦夷討伐記事を根拠に、『日本書紀』斉明四年条に見える蝦夷征討記事を史実とは認められないとしますが、『続日本紀』に記された大和朝廷と蝦夷国との交戦記事と、斉明紀に記された九州王朝によると思われる蝦夷支配記事を同列には扱えません。これは重要なテーマですので、改めて私見を述べたいと思います。


第3359話 2024/10/02

『東京古田会ニュース』218号の紹介

 『東京古田会ニュース』218号が届きました。拙稿「和田家文書「金光上人史料」の真実」を掲載していただきました。同稿では、和田家文書のなかでも金光上人史料は、『東日流外三郡誌』よりも早く、昭和24年頃には外部に提出され、書籍としても発刊された貴重な史料群であることを説明しました。

 同号には國枝浩さんの「唐書類の読み方 古田武彦氏の『九州王朝の歴史学』〈新唐書日本国伝の資料批判〉について」、橘高修さん(同会副会長)の「古代史エッセー81 倭国と日本国の関係」が掲載され、日本列島内の王朝交代についての中国側の認識について論じられました。なかでも橘高稿では、『旧唐書』『新唐書』の倭国伝と日本国伝の丁寧な説明がなされており、良い勉強の機会となりました。

 安彦克己さん(同会々長)の「和田家文書備忘録8 金寶壽鍛造の刀」は、和田家文書に記された刀について紹介されたもので、懐かしく思いました。というのも、和田家文書(『北鑑』39巻)に記された名刀「天国(あまくに)」「天坐(あまくら)」なるものを藤本光幸邸で実見し、和田喜八郎氏の依頼で調査したことがあったからです。このときの調査については『古田史学会報』(注)で報告しましたが、全貌については未発表です。機会があれば、わたしの記憶が確かな内に発表できればと思います。

(注)古賀達也「天国在銘刀と和田末吉」『古田史学会報』18号、1997年。
https://furutasigaku.jp/jfuruta/kaihou/koga18.html


第3351話 2024/09/24

今も続く津軽石塔山神社参詣

 年頭から開始した『東日流外三郡誌の逆襲』の編集作業ですが、八幡書店側の事情で大幅に遅れています。原稿を執筆していただいた皆さんには申し訳なく思っています。そうしたおり、青森県の秋田孝季集史研究会の方からメールが届き、今でも津軽の人々により石塔山神社への参詣が続けられていることを知りました。

 和田喜八郎さんやご長男の孝さんが亡くなり、和田家が離散したため、石塔山神社を護る人もなく、社殿や鳥居は荒れ放題ではないかと思っていたのですが、今でも津軽の人々により参詣が行われていることに、頭が下がる思いです。冥界の秋田孝季や和田吉次も喜んでいることでしょう。わたしも、いかなる困難があっても、『東日流外三郡誌の逆襲』を刊行すると、誓いを新たにしました。


第3330話 2024/08/03

八幡書店・武田社長との対談収録

 7月28日(日)に開催した『倭国から日本国へ』出版記念東京講演会の翌日、安彦克己さん(東京古田会・会長)と品川区の八幡書店を訪問し、編集作業がなかなか始まらない『東日流外三郡誌の逆襲』を「津軽に雪が降る前に発行してほしい」と強く要請してきました。出版記念講演会を東京・仙台・青森で開催するためにも、津軽に雪が降るまでに出版する必要があるからです。

 今回、武田社長とわたしとで、提出した全ての原稿の確認と字数の調査を行いました。総字数は写真や図版を除いても二十万字を越えることがわかり、ソフトカバーで定価は3800円ほどになるとのこと。それでかまわないので、編集作業を急ぐようお願いしました。少々高くてもこの本は売れると判断したからです。また、収録予定の武田社長とわたしの対談も急遽行いました。

 同社での交渉や作業は五時間を越えましたが、たしかな手応えをお互いが感じ取れたように思います。販促のため八幡書店が主催する都内のイベントスペースでの対談と講演に出席を要請されましたので、喜んで協力すると返答しました。

 『古代に真実を求めて』28集の原稿執筆と編集作業、『東日流外三郡誌の逆襲』の編集作業などが年末に向けて重なりそうです。定年退職して、〝鬼〟のようなハードスケジュールからやっと開放されると喜んでいましたが、そうはいかないようです。健康に留意して、頑張ります。

『東日流外三郡誌の逆襲』の内容

Ⅰ 序
①東日流外三郡誌の文献史学 古田史学の会 代表 古賀達也
②和田家文書研究のすすめ 古田武彦と古代史を研究する会 会長 安彦克己
③和田家文書を伝えた人々 秋田孝季集史研究会 会長 竹田侑子
④東日流の新時代を迎えて 弘前市議会議員 石岡ちづ子
⑤「東日流外三郡誌の逆襲」の刊行に寄せて 古田史学の会・仙台 原 廣通
⑥〔対談〕逆襲する東日流外三郡誌(仮題) 八幡書店社長 武田崇元 古賀達也

Ⅱ 真実を証言する人々
①『東日流外三郡誌』真作の証明 ―「寛政宝剣額」の発見― 古賀達也
②松橋徳夫氏(山王日吉神社宮司)の証言 古賀達也
③青山兼四郎氏(中里町)書簡の証言 古賀達也
④藤本光幸氏(藤崎町)の証言  古賀達也
⑤白川治三郎氏(青森県・市浦村元村長)書簡の証言 古賀達也
⑥佐藤堅瑞氏(淨円寺住職・青森県仏教会元会長)の証言 古賀達也
⑦永田富智氏(北海道史編纂委員)の証言 古賀達也
⑧和田章子さん(和田家長女)の証言 古賀達也

Ⅲ 偽作説への反証
①知的犯罪の構造 ―偽作論者の手口をめぐって― 古賀達也
②実在した「東日流外三郡誌」編者 ―和田長三郎吉次の痕跡― 古賀達也
③伏せられた「埋蔵金」記事 ―「東日流外三郡誌」諸本の異同― 古賀達也
④和田家文書に使用された和紙 古賀達也
⑤和田家文書裁判の真相 付:仙台高裁への陳述書2通 古賀達也

Ⅳ 資料と遺物の紹介
①和田家文書の戦後史 ―津軽の歴史家、福士貞蔵氏の「証言」― 古賀達也
②昭和二十六年の東奥日報記事 古賀達也
③昭和三一~三二年の青森民友新聞に連載 古賀達也
大泉寺の開米智鎧氏「中山修験宗の開祖役行者伝」十一月一日~翌年二月十三日まで六八回、「中山修験宗の開祖文化物語」六月三日まで八十回の連載の紹介。
④佐藤堅瑞『金光上人の研究』の紹介 古賀達也
⑤開米智鎧「藩政前史梗概」と『金光上人』の紹介 古賀達也
⑥石塔山レポート 秋田孝季集史研究会

Ⅴ 和田家文書から見える世界
①宮沢遺跡は中央政庁跡 安彦克己
②二戸(にのへ)天台寺の前身寺院「浄法寺」 安彦克己
③中尊寺の前身寺院「仏頂寺」 安彦克己
④『和田家文書』から「日蓮聖人の母」を探る 安彦克己
⑤浅草キリシタン療養所の所在地 安彦克己
⑥浄土宗の『和田家文書』批判を糺す —金光上人の入寂日を巡って— 安彦克己
⑦大神(おおみわ)神社の三つ鳥居の由来 秋田孝季集史研究会 事務局長 玉川 宏
⑧田沼意次と秋田孝季in『和田家文書』その1 皆川恵子
⑨秋田実季の家系図研究 冨川ケイ子

Ⅵ 資料編
①和田家文書デジタルアーカイブへの招待 多元的古代研究会 藤田隆一
②役の小角史料「銅板銘」の紹介 古賀達也

Ⅶ あとがき
①「東日流外三郡誌」の証言 ―令和の和田家文書調査― 古賀達也
②新・偽書論 「東日流外三郡誌」偽作説の真相 日野智貴
③謝辞に代えて ―和田家文書史料批判の視点― 古賀達也