第3418話 2025/01/30

安藤哲朗氏のご逝去を悼む

 多元的古代研究会の顧問(前会長)安藤哲朗氏が一月二四日、ご逝去されました(九一歳)。謹んで哀悼の意を捧げます。

 安藤さんは「市民の古代研究会」時代からの知己、漢文・中国史書に堪能な方で、誠実温厚なお人柄でした。亡くなられた高田かつ子さんの後を継いで多元的古代研究会々長に就任され、『多元』誌の編集発行などにご尽力されました。古田武彦先生が亡くなられた二〇一五年一〇月、友好三団体(多元的古代研究会、東京古田会、古田史学の会)の幹部が東京の学士会館に急遽集まり、追悼行事の打ち合わせをしたことなどが昨日のことのように思い起こされます。

 わたしの手元には、生前、氏から委ねられた未発表論稿があります。『古事記』真福寺本国生み神話に見える「天沼矛(あまのぬぼこ)」の字形に関する論稿で、それを「天沼弟(あまのぬおと)」と読み〝銅鐸の音〟と解釈する古田説を〝否〟とするものでした。研究途上あるいは古田先生に遠慮されたのか、発表の意思はないとのことで、安藤稿に賛成するわたしに託されたのかもしれません(注)。この論文は遺稿となりました。

 最後に『多元』一七〇号(二〇二二年七月)掲載、恐らくは絶筆であろう「FROM編集室」を転載します。
「◆人身受け難し(台宗課誦)◆私もあと短期ののち古田先生の忌に順うであろう◆NHKの深夜放送は例によって目を覆うばかりの小魚の群を少数の大魚が追い廻す光景を放送して◆暗示している◆私は来世何に生まれるやら◆人間を期待するのは無理だろうな◆でも人間は地上を荒らしすぎた◆最近それを人々は自覚しはじめたようだ◆哲朗誠恐誠惶頓首謹言」

 水野孝夫さんら古田史学第一世代の物故が続いています。悲しみと寂しさは雲委の如し。令和の御世、鬼哭啾々にして涙暇無し。あなたのご遺志をしっかりと引き継ぎます。

(注)
古賀達也「洛中洛外日記」628話(2013/12/03)〝幻の古谷論文〟
同「洛中洛外日記」676話(2014/03/11)〝『古事記』道果本の「天沼矛」〟

【写真】学士会館(東京神田)にて。安藤哲朗さん(多元的古代研究会会長・当時)・古賀(古田史学の会代表)・藤沢徹さん(東京古田会会長・故人)2015.10.22。

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