筒井康隆編『ネオ・ヌルの時代』斜め読み
昨晩は名古屋の居酒屋で、西村秀己さん(古田史学の会・全国世話人、高松市)からお借りした筒井康隆編『ネオ・ヌルの時代』(三冊、中公文庫。昭和60年)を斜め読みしました。同書は“SFショートショート”の同人誌『NULL』(復刊)に掲載された作品を筒井康隆さんの寸評を付して収録したものです。
わたしも学生時代に星新一さんのショートショートにはまった経験があり、それ以来、実に40年ぶりにSFショートショート作品を読みました。というのも、この筒井康隆さん編集の三冊全てに西村さんの作品が掲載されており、筒井さんの寸評が付されているというので、お借りして読んだのでした。昭和60年に文庫化されているのですから、逆算すると西村さん二十代の作品ということになり、その文才に驚きました。西村さんが物理の法則にやたら詳しく論理的思考の持ち主というのは知っていましたが、まさか「若きSF作家」だったとは思いもよりませんでした。
作品の内容は各人で読んでご判断いただくこととして、タイトルと筒井康隆さんの寸評のみご紹介します。
『ネオ・ヌルの時代』PART①
「視線」西村秀己
《寸評》似たような話はあるが、ちょいとしたアイデアなので佳作とする。
『ネオ・ヌルの時代』PART②
「合流」西村秀己
《寸評》ずいぶん不合理な点もあるが、ヌルとしては珍しいタイプの作品なので、佳作にしてみた。
「イカロスの羽根」西村秀己
《寸評》イカロス伝説の新解釈である。文章がもうひとつなので入選にはできない。佳作とする。
『ネオ・ヌルの時代』PART③
「邂逅」西村秀己
《寸評》孤独なテレパスであった男女がはじめて会う---というSFはすでにあるのです。もし誰も書いていなければ、ぼくがすでに書いているでしょう。文章もあまりよくない。しかしラストの面白さはちょっと捨てがたい。参考作品とする。
更にPART③には筒井康隆さんの「応募作寸評」という一文があり、「最後にこの同人誌寄稿者諸兄の中から、優秀であった人数人を表彰させていただこう。」とあり、西村さんは「努力賞」とされています。そして、「斉藤・脇・和田・西村の四氏の進歩ぶりはすばらしい。安心して読めるようになり、期待が裏切られることはなくなった。いいアイデアを見つけたら自信を持って書いてください。」との高評価です。筒井康隆さんからここまでいわれるのですから、たいしたものです。ちなみに寄稿者の名前に「夢枕獏」が見えることから、人気SF作家の夢枕獏さんでさえ貰えなかった努力賞を西村さんがもらったことに、また驚いたしだいです。
「合流」という作品には「邪馬台国」論争も話題として取り扱っておられることから、西村さんが若い頃から古代史に関心を示されていたことがうかがえます。ただし、畿内説の他には筑後山門説や宇佐説のみが登場していることから、執筆時点では古田先生の邪馬壹国説をご存じなかったようです。
以下は蛇足ですが、実はわたしも学生時代に文芸部に「所属」していたことがあります。部員には歴史小説作家として名をなした同学年の阿部龍太郎君(機械科)がいました。わたし(化学科)は全く文才がなかったため、入部早々に部員不足に悩んでいた新聞部へ「出向」させられました。もちろん、新聞部でも使い物にならず、先輩から「君が書いたのは記事ではなくメモだ」と叱られ、記事は書かせてもらえず、新聞の広告取りと集金がわたしの部活動となりました。集めた広告料は先輩の“飲み代”に消えました。情けない青春の思い出の一つです。