第3173話 2023/12/06

大宰政庁Ⅱ期創建年代のエビデンス (1)

 先月の「古田史学の会」関西例会で、わたしは七世紀の都城創建年代について解説し、そのなかで大宰府政庁Ⅱ期の創建を670年頃としたのですが、参加者からその根拠(エビデンス)について質問がありました。関西例会らしい鋭い質問でした。なぜなら通説では八世紀初頭とされており、自説とは約四半世紀以上の差があったからです。そこで、次のように説明しました。

(1) 政庁Ⅱ期に先行した掘立柱の政庁Ⅰ期(新段階)と条坊の造営が、文献史学の研究によれば七世紀前半~中頃と考えられることから(注①)、礎石造りで朝堂院様式の政庁Ⅱ期は七世紀後半の創建と見なせる。
(2) 政庁Ⅱ期と同時期の創建と考えられる観世音寺の創建瓦は老司Ⅰ式であり、同じく老司Ⅰ式・Ⅱ式の創建瓦を持つ政庁Ⅱ期の創建も観世音寺と同時期とできる(注②)。
(3) 老司Ⅰ式・Ⅱ式瓦の発生は七世紀後半と編年されている(注③)。
(4) 観世音寺の創建を「白鳳十年」(670年)とする九州年号史料が複数ある(注④)。
(5) 以上のことから判断して、大宰府政庁Ⅱ期の成立を670年頃とするのは妥当である。

 以上のように述べ、八世紀初頭とする通説の根拠についても説明しました。(つづく)

(注)
①古賀達也「よみがえる倭京(太宰府) ─観世音寺と水城の証言─」『古田史学会報』50号、2002年。『古代に真実を求めて』12集(明石書店、2009年)に収録。
正木裕「『太宰府』と白鳳年号の謎Ⅱ」『古田史学会報』174号、2023年。
古賀達也「洛中洛外日記」2955話(2023/03/01)〝大宰府政庁Ⅰ期の造営年代 (1)〟
②同「洛中洛外日記」814話(2014/11/01)〝考古学と文献史学からの太宰府編年(2)〟
③同「洛中洛外日記」1412話(2017/06/11)〝観世音寺・川原寺・崇福寺出土の同笵瓦〟
高倉彰洋「観世音寺伽藍朱鳥元年完成説の提唱 ―元明天皇詔の検討―」『大宰府の研究』高志書院、2018年。
古賀達也「洛中洛外日記」2082話(2020/02/12)〝高倉彰洋さんの「観世音寺伽藍朱鳥元年完成」説〟
④同「洛中洛外日記」405話(2012/04/18)〝太宰府編年の再構築〟
同「洛中洛外日記」458話(2012/08/25)〝『日本帝皇年代記』の九州年号〟
「観世音寺・大宰府政庁Ⅱ期の創建年代」『古田史学会報』110号、2012年。
「観世音寺考」『古田史学会報』119号、2013年。

フォローする