第3233話 2024/02/21

指宿市出土「暗文土師器」の衝撃

 『南日本新聞』元旦号(注①)に掲載された、尾長谷迫遺跡(鹿児島県指宿市)から出土した暗文土師器について研究を進めています。大和朝廷に関係する遺構(国府跡など)からしか出土しない同土師器が、九州王朝時代の七世紀中葉の薩摩の遺跡から出土したことで、当地のメディアに注目されました。これは正木裕さん(古田史学の会・事務局長)が研究してきた、天智の后、倭姫王が薩摩出身の〝九州王朝の姫〟(『続日本紀』には「薩末比売」、現地伝承では「大宮姫」)とする一連の仮説と整合する出土事実であり、正木説を支持する考古学的傍証です(注②)。

 『畿内産暗文土師器関連資料1 ―西日本編―』(注③)によれば、同土師器は「畿内産暗文土師器」と呼ばれており、次のように説明されています。

〝律令国家の形成期には、宮都として特徴的な土師器食膳器が出現する。これらは赤褐色に焼成され、内面に暗文と呼称されるミガキ調整を装飾的に施したものを主体とし、従来より「畿内産土師器」と呼称されてきた。

 その形態や質感は当時の高級食膳具である金属器を意識したもので、多様な形態の器種、法量の分化といった点において、伝統的な食膳具と一線を画するものであった。

 大陸からの新たな文化的要素の到来を示すだけでなく、出現の背景に、官僚制の整備とそれに伴う官人層の大量出現、食事の支給や儀式等の活発化が指摘されている。〟6頁

 ここで紹介されているように、大和朝廷の律令制官僚の大量発生に伴う「畿内産土師器」である暗文土師器が、七世紀中葉の薩摩に存在していたことを示す今回の出土は、大和朝廷一元史観の通説や従来の考古学では説明できず、研究者に衝撃がはしったのではないでしょうか。しかし、わたしにはこの土師器について思い当たることがありました。(つづく)

(注)
①茂山憲史さん(『古代に真実を求めて』編集部)からご教示いただいた。
②大宮姫伝説については、次の拙論と近年の正木氏による研究が進み、「壬申の乱」から王朝交代期の九州王朝(倭国)に関する伝承であることが明らかとなった。
古賀達也「最後の九州王朝 ―鹿児島県『大宮姫伝説』の分析―」『市民の古代』10集、新泉社、1988年。
正木 裕「よみがえる古伝承 大宮姫と倭姫王・薩摩比売(その1)」『古田史学会報』145号、2018年。
「よみがえる古伝承 大宮姫と倭姫王・薩摩比売(その2)」『古田史学会報』146号、2018年。
「よみがえる古伝承 大宮姫と倭姫王・薩摩比売(その3)」『古田史学会報』147号、2018年。
同「大宮姫と倭姫王・薩末比売」『倭国古伝』(『古代に真実を求めて』22集)古田史学の会編、2019年、明石書店。
③『畿内産暗文土師器関連資料1 ―西日本編―』奈良国立文化財研究所、2005年。

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