2023年05月17日一覧

第3018話 2023/05/17

神籠石山城分布域の不思議

先週の12日に開催された多元的古代研究会のリモート研究会で、古代山城や神籠石山城の築造時期について問われました。そこで、古代山城研究の第一人者である向井一雄さんの著書『よみがえる古代山城 — 国際戦争と防衛ライン』(注①)を紹介し、出土土器などを根拠に七世紀後半頃とするのが有力説だと答えました。そのうえで、近年の調査報告書の出土土器を見る限り、採用されている飛鳥編年の誤差や編年幅はあるとしても、鞠智城以外は七世紀頃の築造と見なして問題はなく、穏当な見解と述べました(注②)。
神籠石山城などの築造年代を七世紀後半頃とする説へと収斂しつつありますが、他方、未解決の問題も少なくありません。その一つに、なぜ神籠石山城の分布が北部九州と瀬戸内海沿岸諸国の範囲にとどまっているのかというテーマがあります。大和朝廷発祥の地となった近畿地方、出雲や越国など神話に登場する日本海側諸国、そして広大な濃尾平野と関東平野、更には南九州や四国の太平洋側にはなぜ故神籠石山城がないのかという疑問です。
理屈の上では、神籠石山城で防衛しなければならないような地域ではなかった、あるいは脅威となる外敵はいなかったなどの説明が可能ですが、それもよくよく考えると抽象的であり、今ひとつ説得力に欠けそうです。たとえば、近畿天皇家も王朝交代前に防衛施設として大和に山城群を築城してもよさそうですが、史料に現れるのは高安城くらいで、神籠石山城は皆無です。出雲国も伝統ある大国で、海からの侵入の脅威にさらされていますが、古代山城発見の報告を知りません。
このように、神籠石山城などには多元史観・九州王朝説でも解明できていない問題があるのです。この現象(神籠石山城分布域)をうまく説明できるよいアイデアや視点があれば、ご教示下さい。

(注)
①向井一雄『よみがえる古代山城 国際戦争と防衛ライン』吉川弘文館、2017年。
②古賀達也「古代山城研究の最前線 ―前期難波宮と鬼ノ城の設計尺―」『東京古田会ニュース』202号、2022年。