古田史学の会一覧

第953話 2015/05/16

北京大学図書館蔵「九州年号史料」の報告

 本日の関西例会には久しぶりに神戸市の谷本茂さん(古田史学の会・会員)が参加され、九州年号に関する研究2件を発表されました。中でも北京大学図書館が所蔵している九州年号「定居」が記された『唯摩結経』写本を神戸外語大の図書館所蔵写真本からコピーして紹介され、感慨深く拝見しました。
 「聖徳太子」による書写とされる同史料については、「洛中洛外日記」でも論じてきたところですが、後代偽作などではなく、同時代九州年号史料、あるいはその写本と思われました。谷本さんも同様の見解を発表されましたが、やはり北京大学で同史料を実見し、紙の科学的調査などにより成立年代を調査する必要を改めて感じました。
 正木裕さんからは、謡曲「桜川」の母子の出身地「筑紫日向」が糸島半島の細石神社付近であることを論証されました。
 5月例会の発表は次の通りでした。

〔5月度関西例会の内容〕
①賀正・大射礼と改新詔(八尾市・服部静尚)
②「白髪三千丈」-二つの欺瞞-(八尾市・服部静尚)
③『三国志』と朝鮮半島の「倭」について(姫路市・野田利郎)
④北京大学図書館蔵敦煌文献「定居元年歳在辛未上宮厩戸寫」『唯摩結經巻下』の史料批判(神戸市・谷本茂)
⑤「貞慧伝」の白鳳年号と『二中歴』の“逸年号”について -11年ずれた干支紀年の仮説-(神戸市・谷本茂)
⑥謡曲「桜川」と九州王朝(川西市・正木裕)
⑦学問としての歴史の論拠について(奈良市・出野正)
⑧中国の王朝暦は二倍年暦か?(奈良市・出野正)
⑨服部静尚氏の「倭国」=「倭人の国」についての不可解を論じる(奈良市・出野正)

○水野代表報告(奈良市・水野孝夫)
古田先生近況(『古田武彦古代史百問百答』ミネルヴァ書房発刊)・新年度の会役員人事・経費決算・明石城から人丸山柿本神社ハイキング・テレビ視聴(飛鳥仏教と尼寺、巴文探求)・鳥取県湖山長者伝説・その他


第933話 2015/04/25

メルマガ「洛洛メール便」配信のお知らせ

このたび「古田史学の会」では会員を対象としたメールマガジン「洛洛メール便」配信サービスをスタートさせます。コンテンツは当面次のような内容で始めます。

(1)「洛中洛外日記」
ホームページでは週1回のペースで更新していますが、「洛洛メール便」にて随時配信します。
(2)「洛中洛外日記」号外
号外はホームページには掲載されない会員向け限定情報です。
(3)会員へのお知らせ・他。

最初は試行錯誤で進めますが、徐々に充実させたいと考えています。また、会員からのメールでのご質問やご要望などにも、可能な限りお答えしたいと考えています。
「洛洛メール便」配信を希望される会員は、下記のメールアドレス宛に「洛洛メール便配信希望」と記して下記の内容を記入して下さい。会員名簿によるご本人確認の上、「洛洛メール便」配信を開始します。

○お名前
○『古田史学会報』発送先のご住所
○電話番号
○会員番号
○配信先のメールアドレス

【配信申し込み先アドレス】
yorihiro.takemura1@gmail.com
担当者 竹村順弘(古田史学の会・全国世話人)

なお、配信はbccで行います。会員の皆さんのお申し込みをお待ちしています。

参照:当会の入会案内


第929話 2015/04/21

6月21日(日)、米田敏幸さんを迎え、

記念講演会開催済み

 今日は仕事で宝塚市仁川に行きました。途中、阪急梅田駅で乗り換え待ち時間がありましたので、紀伊国屋書店で時間つぶししました。もちろん古代史書籍コーナーに直行したのですが、『盗まれた「聖徳太子」伝承』も聖徳太子コーナーの書棚に並んでいました。『古代に真実を求めて』の他の号は置かれてなかったので、「聖徳太子」特集を前面に押し出したリニューアルの効果が、こうしたところにも出てきているようです。
 一昨日の「古田史学の会」の編集会議で、6月21日(日)開催予定の定期会員総会での記念講演講師を検討しました。今回は庄内式土器研究のスペシャリストである米田敏幸さんと正木裕さん(古田史学の会・全国世話人)のお二方に講演していただくこととなりました。米田さんからは庄内式土器の胎土研究の成果から、「邪馬台国」畿内説の考古学的根拠の一つとされてきた庄内式土器産地(中心地)が大和ではなかったことや、河内での考古学的出土状況などをお話しいただけることと思います。正木さんからは倭人伝の文献史学研究と「呉の年号鏡」研究の成果など、邪馬壹国と争った狗奴国について発表していただけます。
 いずれも、関西(銅鐸文明圏)にあった狗奴国研究において、今後の起点(問題提起)になるものと期待されます。多くの皆さんのご来場をお待ちしています。非会員の方も聴講できます。
 なお、お二人の講演録は、今秋発刊予定の『「邪馬台国」論争を超えて ・・邪馬壹国の歴史学』(仮称、古田史学の会編・明石書店刊)に収録を計画中です。こちらもご期待下さい。
記念講演会の詳細は後日改めてお知らせしますが、会場は「i-siteなんば」で、6月21日(日)午後1時に開演です。


第927話 2015/04/19

「邪馬台国」論争を越えて

・・・邪馬壹国の歴史学

 今日はi-siteなんばで、「古田史学の会」の編集会議を行いました。今秋、発行予定の『三国志』倭人伝研究の本に関する書名や章立て、掲載稿について審議しました。
 書名について様々な案を検討し、従来の「邪馬台国」本とは内容もレベルも異なることが印象づけられる古田史学らしい書名として次の案が採択され、明石書店に提案することにしました。

 『「邪馬台国」論争を越えて ・・・邪馬壹国の歴史学・・』古田史学の会 編

 章立ても検討中ですが、次のような項目(仮称)と切り口で古田史学・邪馬壹国説を説明します。

 ○巻頭言
 ○初めて古田史学、邪馬壹国説に触れられる皆様へ
 ○古田先生からのメッセージ
 ○倭人伝の位置づけ
 ○短里で書かれた『三国志』
 ○倭人伝の二倍年暦
 ○倭人伝の文物
 ○全ての史学者・考古学者に問う
 ○講演録
 ○『三国志』原文(紹煕本)と古田先生の訳文

 若干の変更はあると思いますが、概ね以上のような内容となります。この本もかなり面白く、かつ後世に残る一冊になりそうです。
 ところで、3月に発刊しました『盗まれた「聖徳太子」伝承』(『古代に真実を求めて』18集)が好評により、明石書店の在庫も底をつきそうですので、増刷の方向で検討を進めています。お買い上げいただいた皆様に御礼申し上げます。


第926話 2015/04/18

アポローンは太陽神か?

 本日の関西例会も盛りたくさんの発表で、楽しく有意義な一日となりました。
 冒頭、西村さんからは、ギリシア神話のアポローンは太陽神ではないと史料をあげて説明されました。アポロドーロス著『ギリシア神話』(高津春繁訳、岩波文庫)によれば、アポローンは予言者・神託にかかわる神とされており、古代ギリシアにおける太陽神はヘーリオスとされています。ちなみにヘーリオスはオリンポス山には住んでいないとのこと。アポローンがいつ頃から太陽神とされたのかと質問したところ、5〜6世紀頃ではないかとのことでした。
 原さんは、『住吉神代記』に記された住吉の神領が難波京を取り囲むように位置していることから、これら全体で「一国」を形成していたのではないかとされました。そして『二中歴』「年代歴」細注にある「新羅人来たりて筑紫より播磨を焼く」という記事は、新羅が住吉神社の勢力圏を攻撃したのではないかとされました。
 出野さんからは前回に引き続いて、『漢書』『三国志』倭人伝に見える「倭」と「倭人」が別国(朝鮮半島の「倭」国と日本列島の「倭人」国)であるとする持論を展開されました。先月、茂山憲史さん・正木さん・西村さんから出された批判について、改めて反論されました。特に興味深く思ったのが、西村さんへの反論で示された「在」と「有」の違いについての説明です。『漢書』の「楽浪海中有倭人」にある「有」は倭人の「初見」を表す際に用いられ、既知の場合は「倭人在帯方東南海中」(『三国志』倭人伝)のように「在」の字が使われるとのことで、面白い指摘と思われました。
 岡下さんは、『万葉集』で宇治川を「是川」と表記する例(2427・2429・2430)があるが、これは「この川」と訓むのではないかとされました。そして、古墳時代の銅鏡の銘文で倭人は漢字を習得したとする森浩一説を批判され、交易により記録が必要なため、渡来人から倭人は交易業務と共に文字を習ったとされました。倭国の文字受容の時期や仕方について論議が交わされ、認識が深まりました。
 この間続けられてきた「大化改新詔」論争が今回もなされました。服部さんは、前回の正木さんからの批判は決定的なものではないと反論され、「大化改新詔」は九州王朝により7世紀中頃に前期難波宮で出されたと考えても問題ないとされました。
 正木さんからは「大化改新」論争の研究史と諸説を概説され、自説の「常色の改革」説を再論されました。そして、なぜ九州年号「大化」(695〜703年)を『日本書紀』では645〜649年にずらして盗用したのかが根本の問題とされ、その理由が説明できない服部説を批判されました。
 次に、「短里」の起源が殷まで遡ることを『礼記』などから論証され、「短尺(16cm強)・短寸(2cm強)」と「短歩(25cm強)・短里(75m強)」(周制三百歩を一里とす。『孔子家語』)が別系統の長さの単位であることを漢字の語義などから明らかにされました。
 最後に、服部さんから「長者」の意味について発表があり、「長者」は仏教用語(ギルドの頭領・指導者・組合長を意味するシュリイシュティンの漢訳)として6世紀後半から7世紀にかけて日本に伝来したとされました。そして「長者」は九州王朝の天子の呼称としてふさわしいと締めくくられました。時間が少し余りましたので、ギリシア旅行の報告が服部さんからなされました。
 以上、4月例会の発表は次の通りでした。

〔4月度関西例会の内容〕
①アポローンは太陽神に非ず(高松市・西村秀己)
②住吉神代記と九州王朝(奈良市・原幸子)
③松本清張氏の見解を再び(奈良市・出野正)
④鏡は文字習得に役立ったか(京都市・岡下英男)
⑤「大化年号は何故移設されたか」論考に問う(八尾市・服部静尚)
⑥大化の改新問題について(川西市・正木裕)
⑦「短里」の成立と漢字の起源(川西市・正木裕)
⑧長者考(八尾市・服部静尚)
⑨ギリシア旅行報告(八尾市・服部静尚)

○水野代表報告(奈良市・水野孝夫)
 古田先生近況(お元気で好調、津軽の金光上人新史料入手、太田覚眠新史料入手)・新年度の会役員人事・橿原市博物館ハイキング・テレビ視聴(北摂の窯業生産、平安遷都と瓦生産)・大塚初重氏「三角縁神獣鏡国産説に転向」・その他


第917話 2015/04/09

『古田史学会報』

  127号のご紹介

 今日は仕事で加古川市に来ています。途中、JR新快速の車窓から見える六甲山にも、まだ所々に散り始めた桜を遠望できました。この沿線途中のお気に入りスポットは明石城です。天守閣はないのですが、二つの櫓を両脇に持つ石垣やお堀がとても美しい城郭です。
 『古田史学会報』127号が発行されましたので、ご紹介します。掲載稿は次の通りですが、平田さんは入会間もない新人ですが、テーマも筑後方言に基づく『日本書紀』の史料批判という新たな研究分野で、論証の方法論も手堅くまとめられています。もう一人、安随さんも会報には初投稿ですが、関西例会では古参のメンバーです。関西例会で発表された研究を投稿していただきました。
 安随さんは、『日本書紀』天智紀に見える唐の筑紫進駐軍(2000人)の大半(1400人)は船団を操る「送使団」であり、侵略軍・武装集団ではないとされました。この安随説が正しければ、唐の進駐軍は筑紫を「軍事制圧」するには「少人数」ですし、ましてや九州王朝の「陵墓破壊」などが目的ではない可能性が高くなります。今後の論争や研究の進展が期待されます。
 正木さんと西村さんからは短里についての新発見が報告されました。ますます短里説が正しかったことが明らかになりました。これらの論稿により、『三国志』の短里研究は更にレベルの高い段階へと進みました。
 服部稿は、近年の考古学研究成果を紹介され、大和朝廷一元史観の根拠の一つとなっていた、大和の庄内式土器が全国にもたらされたという従来説は誤りであり、全国に普及した庄内式土器の多くは播磨産であることが、胎土の研究により明らかになったとされました。この間、精力的に取り組まれた服部さんの「考古学」研究により、近畿天皇家一元史観の根拠がまた一つ崩れ去ったようです。
 以上のように、『古田史学会報』127号は大変優れた内容となりました。わたしたち古田学派の陣容が確実に強化された手応えを感じました。
 最後に、古田先生からはギリシア旅行「断念」の一文をいただきました。断念せざるを得なかった先生には申し訳ないことですが、わたしとしてはご高齢をおしてのギリシア旅行を心配していましたので、複雑な心境ではありますが、やはり「安心」しました。先生にはご無理はなされず、長生きしていただきたいと願っています。

【『古田史学会報』127号の掲載稿】
○「張家山漢簡・居延新簡」と「駑牛一日行三百里」  川西市 正木 裕
○短里と景初 誰がいつ短里制度を布いたのか?  高松市 西村秀己
○“たんがく”の“た”  大津市 平田文男
○邪馬台国畿内説と古田説はなぜすれ違うのか  八尾市 服部静尚
○学問は実証よりも論証を重んじる  京都市 古賀達也
○「唐軍進駐」への素朴な疑問  芦屋市 安随俊昌
○『書紀』の「田身嶺・多武嶺」と大野城  川西市 正木 裕
○倭国(九州王朝)遺産10選(下)  京都市 古賀達也
○断念  古田武彦
○2015年度会費納入のお願い
○古田史学の会・関西例会のご案内
○史跡めぐりハイキング 古田史学の会・関西
○『古田史学会報』原稿募集


第914話 2015/04/05

ギリシアからのメール「会員10倍増」

 ギリシア旅行に行かれている服部静尚さん(『古代に真実を求めて』編集責任者)からメールが届きました。楽しく旅行を続けられているようです。
 メールによれば、オリンポス山からバスで1時間ほどのボロスのホテルで、東京古田会の藤沢会長さんらとの夕食後、赤ワインを飲みながら、服部さんが「古田史学の会は会員10倍を目指している」と口を滑らせたとのこと。服部さんらしい前向きな発言です。この一見無謀なビジョンですが、わたしは不可能ではないと考えています。
 関西例会後の懇親会などで時折わたしも言っていることなのですが、インターネットを駆使したweb会員制度というシステムを構築できれば、会員は飛躍的に増やせるのではないでしょうか。年会費2000円程度に設定し、『古田史学会報』をネット配信し、SNSで会員のみを対象としたサイバー例会を行うのです。
 今でも、会の役員間でメールのやりとりを行っていますが、そこでは会運営の事務連絡以外にも、研究に関する意見交換も行っており、とても有意義です。これに一般会員もSNSで参加できれば、もっと活発で有意義な論議が進むことでしょう。現状では管理体制や課金システムなどの課題を克服できませんが、いずれ実現できればと願っています。インターネットやパソコンが得意な方のご協力が得られれば有り難いと思います。


第909話 2015/03/27

古代史のブルーオーシャン戦略(3)

 「九州年号」などのテーマが「ニッチ(隙間)」ではなく、新たな「ブルーオーシャン(競争なき市場)」であることに気づき、後にそれが確信に変わったのは、服部静尚さんによる考古学分野での研究(庄内式土器・他)と考古学者との交流により明らかとなった、考古学界における「学問の実体」を知ったことでした。
 遺跡や遺物を研究対象とする考古学ですから、出土物に対する「解釈」に異説があるのは学問ですから当然なのですが、考古学的出土事実に対しては等しく合意や情報の共有化が果たされていると、わたしは思っていたのです。ところが服部さんの調査によると、自説に都合の良い出土事実のみに基づいていたり、不都合な出土事実そのものを知らないまま立論されているケースがあるとのこと。このように近畿天皇家一元史観は文献史学だけではなく、考古学の諸説も結構ずさんであることがわかってきたのです。その結果、わたしたち古田学派の研究者は、一元史観論者との「他流試合」でも有効に戦えるということが明らかとなり、ブルーオーシャン(一元史観論者が論争したくないテーマ)は結構たくさんありそうなのです。
 とすれば、どのようなステージやツールで競争するのが有効なのかを検討すればいいわけです。今のところ考えているのが、インターネット上のサイバー空間や書籍の発行、各地の講演会といったステージでの展開を検討しています。既にユーチューブを利用した動画配信事業が正木裕さんらにより準備が進められています。将来的には「古田史学の会」会員を中心としたSNSも視野に入れています。講演会も久留米大学の公開講座や愛知県では高校生を対象とした公開講座も「古田史学の会・東海」により続けられています。
 ブルーオーシャン戦略は計画段階での様々な分析手法がありますので、わたしも再度勉強しなおして、「古田史学の会」の運営や事業計画に採用したいと考えています。


第908話 2015/03/26

古代史のブルーオーシャン戦略(2)

 「ブルーオーシャン戦略(Blue Ocean Strategy)」とは、新規需要を主体的に創造し、競争が存在しない状況を作り出すという、従来にない新しい戦略論です。提唱者であるW・チャン・キムとルネ・モボルニュの同名の著書は、2005年に販売されると、たちまち世界的ベストセラーとなりました。限られた市場における価格競争などの血みどろの争い(レッド・オーシャン)ではなく、競争のない市場空間(ブルーオーシャン)を生みだし、競争戦略そのものを無関係なものにするというのが「ブルーオーシャン戦略」の要諦です。
 わたしが「古田史学の会」のような非力で弱小の組織でもブルーオーシャン戦略の採用が可能ではないかと最初に気づいたのは、『「九州年号」の研究』(ミネルヴァ書房、2012年1月)の発行と熊本県和水町で「九州年号付き納音史料」についての講演(2014年5月)を行ったときでした。これらの反響から、「九州年号」という九州王朝説の中核的テーマは一般の方にもわかりやすく、近畿天皇家一元史観側からすれば、なまじ論争などしてその存在そのものを国民に知られたくないという事情から、学問論争(競争)のない空間、ブルーオーシャンではないかとはっきりと自覚できたのです。
 この「九州年号」と同様に、一元史観側にとって国民に知られたくないテーマは他にもあります。たとえば『旧唐書』倭国伝と日本国伝の別国表記の存在、『隋書』の「阿蘇山」記事や男性の「日出ずる処の天子」多利思北孤などです。これらは論争が公に開始されると、国民にその存在が知られてしまい、一元史観の矛盾が白日の下に晒されてしまうという恐怖心から、彼ら(古代史業界のリーダーたち)は絶対に論争や反論をしかけてきません。もし反論があれば、その勇気を称えるにやぶさかではありませんが。
 ですから、これらのテーマはわたしたち古田学派の独壇場(ブルーオーシャン)となり、その戦うステージとタイミングやツールが適切であれば、古田史学の支持者や読者、ファン、会員を獲得することが今まで以上に容易となるはずです。(つづく)


第907話 2015/03/25

古代史のブルーオーシャン戦略(1)

 わたしは仕事で主にマーケティングに携わっていますので、マーケティング戦略や理論について勉強する機会が多くありました。ドラッカーを手始めに、マイケル・ポーターやコトラーなどの著作や解説書はかなり読み、仕事に応用してきました。そして、一時期流行した「ゲーム理論」まではそれなりに理解・応用できたのですが、新しい「ブルーオーシャン戦略」は難しくて、わたしの手には負えませんでした。
 そうした経験から、「古田史学の会」の運営においてもビジネスのマーケティング論を援用したり、参考にしてきました。「洛中洛外日記」723話でもホームページの「フリーミアム戦略」について触れたことがありました。「古田史学の会」創立以来、戦略的には「ニッチ戦略」という視点で運営してきましたが、その理由は、古田史学・多元史観は学問的には優れていても運動論・組織論的には国家体制に組み込まれた巨大な近畿天皇家一元史観(戦後型皇国史観)の学界やメディアと真正面からぶつかっても「勝てる相手」ではありませんし、また相手にもされないと考えたからです。そこで、独自に「古田学派」として、日本古代史では少数派(ニッチ)の多元史観・九州王朝説に特化して、そのステージで力をつけるという戦略をとってきました。組織拡大を意識的に行わなかったのも、こうした基本戦略に基づいてきたからです。
 ちなみに、マーケティング論的には「ニッチ戦略」とは業界のトップリーダーと「戦わない」という戦略でもあります。すなわち、業界のトップリーダーにとって、小規模マーケットであるニッチ(隙間)に参入してもメリットがないため、ニッチは業界の主戦場とはならないのです。結果として「ニッチ」企業は業界のリーダー企業と戦わなくてもすみ、生き残ることができます。これが「ニッチ戦略」のキーファクターです。
 ところがあることが契機となり、今まで続けてきた「ニッチ戦略」から「ブルーオーシャン戦略」へ転換しようと、わたしの考えが変わりました。それは服部静尚さん(『古代に真実を求めて』編集責任者)の研究や活躍に触発されたためです。(つづく)


第903話 2015/03/20

『盗まれた「聖徳太子」伝承』発刊

本日、出張先から帰宅すると、明石書店から『盗まれた「聖徳太子」伝承』(『古代に真実を求めて』18集)が届いていました。表紙も中身のレイアウトも一新されており、狙ったとおり以上のリニューアルに成功していました。明石書店の担当の森さんにはかなり頑張っていただき、感謝しています。
冒頭には皇室御物の『法華義疏』のカラー写真が掲載されており、読者はその実相に触れることができます。『古代に真実を求めて』にカラー写真が掲載されたのは初めてですが、編集責任者の服部静尚さんのご尽力の賜です。法隆寺以前の持ち主が書かれていた部分が鋭利な刃物で切り取られた痕跡も写っており、これは同書が近畿天皇家の「聖徳太子」のものではなかったことを意味します。
古田先生へのインタビュー「家永三郎先生との聖徳太子論争から四半世紀を経て」では、古田先生が東北大学の恩師・村岡典嗣先生亡き後、新たに赴任されてきた家永先生に学ばれ、日本思想史の単位を認定していただいたこなどが語られており、先生ご自身による貴重な歴史的証言と思いました。
巻末には、法隆寺釈迦三尊像光背銘と『隋書』「イ妥(タイ)国伝」版本、そして古田先生によるそれらの現代語訳も収録されており、史料として研究にも役立ちます。本書は多元的「聖徳太子」研究における、後世に残る一冊に仕上がったと自負しています。
「古田史学の会」2014年度賛助会員(年会費5000円)には明石書店から順次発送されます。大型書店にも並びますので、是非お買い求めください(定価2800円+税)。次号19集は「九州年号」を特集します。更に『三国志』倭人伝を特集した別冊も発行予定です。こちらもお楽しみに。


第889話 2015/03/06

盗まれた「聖徳太子」伝承

『古代に真実を求めて』第十八集

 

『盗まれた「聖徳太子」伝承』の表紙

今春、明石書店から発行される『盗まれた「聖徳太子」伝承』(『古代に真実を求めて』18集)の表紙カバーのデザインが決まりました。
編集責任者の服部静尚さんから送られてきた画像ファイルによれば、『隋書』イ妥国伝の影印を背景に中央にタイトル(盗まれた「聖徳太子」伝承)があり、 その右には「聖徳太子童子立像」(飛鳥寺所蔵)、下には「法隆寺夢殿」の写真が配され、四隅には原幸子さん(古田史学の会・会員、奈良市)が描かれた絵が あります。裏表紙にも原さんの絵が中央に配されており、素敵な表紙カバーができあがりました。
裏表紙には特集『盗まれた「聖徳太子」伝承』の掲載論文タイトルが並び、書店で手にとっていただいたとき、その内容が目に留まるような配慮がなされてい ます。当初の意図通りのリニューアルに成功しています。同書の発行が待ち遠しく、今からワクワクしています。
『古代に真実を求めて』19集は「九州年号」を特集します。それとは別に、『三国志』倭人伝をテーマとする別冊も企画しています。「古田史学の会」の総力を挙げて、後世に残るような書籍を作りたいと思います。これからも会員の皆様のご協力をお願いいたします。